社長・経営者と学生の価値観マッチング!『WinC Audition』に行ってみた

株式会社プレシャスパートナーズ
常務取締役 COO
佐伯 昌哉 氏
さえき・まさや/飲食企業での勤務を経て不動産会社に入社し営業を経験。その後、2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。求人広告事業に携わり、名古屋支社・大阪支社・福岡支社の立ち上げに携わる。2016年に執行役員に就任し、2017年に常務取締役に就任。2019年より現職。

世相やトレンドの変遷にともない、学生の「就活の軸」は年々変化している。株式会社インタツアーの調査によると、25卒学生は「社風」や「人の魅力」を企業を選ぶ際に重視する傾向があるという。

そんな中、株式会社プレシャスパートナーズでは社長と価値観でマッチングするイベント「WinC Audition(ウインクオーディション)」を開催している。社長と学生は何を求めてこのイベントに参加しているのか。今回はHRog編集部が同イベントに参加したレポートをお届けする。

「一緒に働きたい」と思える相手を見つけるためのイベント

会場に入ってまず目に飛び込んできたのは「社長就活」の看板だ。同社が提唱する「社長就活」とは、社長自らがビジョンや企業理念を発信し、会社の未来を託せるような新卒人材の獲得を目指す採用手法である。「WinC Audition」はこの採用コンセプトに基づいて行われるイベントであり、学生と参加企業の社長・経営者は価値観を軸にマッチングを図っていく。

イベントではまず、社長・経営者らがパネルトークで自らの価値観や企業の社風・カルチャーなどについて語る。続くトークセッションで学生は社長・経営者に直接自己PRをし、企業理解を深めるために質問を重ねていく。

パネルトーク・トークセッションを通して、学生と社長・経営者は「一緒に働きたい」と思った志望度別にお互いへのポイント評価を行う。どちらか一方による評価ではなく相互での評価を行うため、より精度の高いマッチングを目指せることが同イベントの大きな特徴だ。マッチングした学生は一次選考免除など各企業における「特別選考ルート」を獲得でき、中でもベストマッチした上位2名の学生はイベント終了後にそのまま社長・経営者との食事会へ招待される。

会場は近未来的で、一般的な就活イベントとは異なる雰囲気だ。50名の学生が6テーブルにわかれイベント開始まで待機している。

待機時間では、トークセッションに向け学生が自己PRの練習をしている様子が見られた。社長たちの登場を待つ学生たちは、どこか緊張の面持ちだ。

パネルトークの様子

社長らが登壇し、パネルトークが始まった。学生には事前に社長たちのプロフィールシートが配られており、それをもとにトークが進んでいく。プロフィールシートで特徴的なのは、出身地や趣味・特技、座右の銘など一般的な項目に加え、六角形のレーダーチャートがあることだ。社会人に求められるスキルが、HP・攻撃力・知力などゲームのステータスのように言い換えられている。

「活躍する社員の3タイプ」を記載する欄もある。プロフィールシートは学生側も作成しており、自分自身に近いと思うタイプをあらかじめ3つ選んでいる。社長のパネルトークを聞きながら、学生は自身がその会社とマッチしているか複合的に判断することが可能だ。

司会からは企業理念や社長の価値観を深掘りするお題が投げかけられた。

お題1:「6角形レーダーチャートの配点理由と、活躍社員の特徴3つの選択肢について」

「攻撃力はコミュニケーション能力のことを指していると考えているので、今日のトークで失敗した時のために配点を減らしています(笑)」

「私の人生は失敗の連続でしたが、学生と社会人では失敗の意味が変わってきます。学生だと、テストでいい点を取らなければいけない、失敗してはいけないと刷り込まれますよね。一方、社会人だと早い段階で失敗した人が成長するんです。失敗して、原因を分析して、起き上がる。社会人では前向きな失敗をどんどんしてください」

「活躍する社員3つのタイプとして、情熱・ロジカル・成果追求を挙げました。一見相反する特徴に思われるかもしれません。ただ、弊社では人それぞれの良さを活かす組織づくりを大事にしており、様々なタイプのメンバーが自分なりのタイプを活かして活躍しているんです」

お題2:「なぜ理念を大事にしているのか」

「皆さんきっとお金が好きですよね。私は大好きです(笑)。ただ、やはりお金だけでは豊かになれません。お客様に喜ばれて、お客様とともに豊かになれる。弊社の理念は、そういった心の豊かさも大事にしたい想いから生まれました」

レーダーチャートをもとに赤裸々に自分のことを語ったり、学生に向けたメッセージを送ったりするなど、社長たちの様々なトークが繰り広げられた。大きくうなずいたり、時に笑ったりしながら話を聞く学生を前に、「この人数を前にして話すのには慣れていない」と緊張した様子で語る社長もいた。

トークセッションの様子

パネルトークが終わり、社長・経営者がいよいよ各テーブルに着席する。6人の社長がすべてのテーブルを回るため、1セッション25分×6回とかなりの長丁場だ。

トークセッションでは、まず学生が社長に対し自己PRを行う。

学生たちはバスケやサッカーなどのスポーツ経験、ダンスなどのサークル活動から得たスキルや、「働くことは遊びである」という独自の哲学などを思い思いにアピールしていた。営業の長期インターンシップをしていたり、大学で生成AIという最先端の技術を研究していたりといった自己PRからは、多種多様な経験をした学生たちが集まっていることが伺えた。

自己PRの持ち時間は一人30秒と非常にタイトだ。緊張して言葉に詰まるといった様子は見られつつも、練習の甲斐もあってか一人ひとりが簡潔にエピソードを話し切っていた。

学生の自己PRが終わり、社長とのトークセッションが始まった。「生成AIを事業でどう活用しているのか」という自分の専門分野と絡めた質問や、「なぜ御社は成長できたのか」という事業の質問まで幅広い話題が飛び交った。

「社長は学生時代から独立したいと考えていたのか」「なぜその若さで社長になれたのか」「なぜ働き続けられるのか」といった、社長と直接話せる同イベントだからこそ可能な価値観マッチングを図る質問も数多くみられた。

条件ではなく価値観でマッチする社会へ

同イベントの開催の背景や目的について、責任者である佐伯氏により詳しく伺った。開催の背景には、新入社員の早期離職の問題があると佐伯氏は語る。

厚生労働省の調査によると、令和2年3月の大学卒業者の3年以内の離職率は32.3%に上っています。一般的な就活では自身の希望する条件から企業を絞り込み選考に進んでいきますが、企業が提示する条件や待遇は時代ごとに変わっていくものです。また、求職者自身が企業に求めるものもライフステージに合わせて変化していくでしょう。そのような『変わるもの』を軸にしたマッチングでは社員の定着は難しくなると考えられます。

ミスマッチを防ぎ、社員の定着・活躍を目指していくためには、企業の代表である社長のビジョンや価値観、企業理念という『変わらないもの』を軸にしたマッチングが理想的だと考えています。それを実現させるため、『社長就活』という新卒採用サービスサービスを始めました」

変わるものと変わらないもの。どちらも就活の軸としては大事なものだといえるが、佐伯氏はマッチングの軸が前者に偏りすぎていることにミスマッチや早期離職といった問題の一因を感じていたという。

「イベントのこだわりは、学生の価値観と他でもない社長の価値観を一致させようとプログラムを組んでいることです。例えば学生と人事担当者の価値観がマッチングしても、その担当者が転職、退職した時点でミスマッチが起こってしまいます。

それに比べれば社長・経営者が退任する可能性は低いといえます。学生からすれば、社長という『変わらない人材』の、理念・価値観という『変わらないもの』が自分にフィットしているかをパネルトークから確かめることができるわけです。トークセッションでは、その価値観が自分に本当にマッチしているものか判断するため質問や対話を重ねることができます」

価値観マッチングの基準は個々人の感覚に寄るところが大きく、ともすればイベント内容も曖昧になってしまうかもしれない。プロフィールカードやそれをもとにしたパネルトーク・トークセッションといったプログラムは、価値観マッチングという状況をより具体的なものにするため練られているのだ。

今後の展望

佐伯氏は今後、マッチング精度を高めるため様々なイベントコンテンツを準備していくという。プログラム内容のほか、イベント自体の展望についても伺った。

「25卒を対象にしたイベントは、東京・名古屋・大阪のオフライン会場とオンライン会場の2パターンで開催しています。26卒採用の開催は8月からを予定しており、これまでの開催に加えて地方に特化したオンラインイベントも行う予定です。

ありがたいことに『WinC Audition』のみでの採用活動が可能になっているというお声もいただいており、リピート企業様で枠が埋まることも増えてきています。多くの企業様にご参加いただけるよう、今後は開催数自体を45回から60回に増やしていきます」

開催数が増えていけば、それだけ学生と社長の価値観マッチングも増えていくだろう。条件を軸にしたマッチングが当たり前ではなくなりつつある現代、佐伯氏は新卒の採用手法を見直していくべきだと語る。

「新卒一括採用から伺えるように、日本における新卒採用は『とにかく量を取ろう』となりがちです。しかし量を求める手法ではミスマッチが起こりやすく、3年内離職などの問題が生じてしまいます。そして企業側は辞めた人員の穴を埋めるため、また大量に人を採用しようとするわけです。

企業が欠員を募集するたびに求人広告へのニーズが生じてくるため、このような状況は求人広告業からすれば需要があるといえるかもしれません。しかし、弊社が目指しているのは、社員が価値観マッチングによって会社に定着して幸せに働ける社会です。採用ばかりに注力して、辞めていく人材に目を向けない企業が多い現状は改善していくべきだと考えています。

弊社のサービスやイベントが『社員の定着にまでしっかり目を向けられているか』と見直す機会になれば嬉しいです」

参加企業・学生の反応は?

参加していた企業や学生にも感想を聞いてみた。

参加企業:デジタルフォルン 岩崎氏

「事業の特徴をアピールする場は多いですが、理念やカルチャーでのマッチを目指す場は少ないと感じていました。真に『自分たちにしかできない事業』を行っている会社は少ないため、差別化のポイントはやはり価値観やカルチャーにあるといえます。

同イベントはプログラムや質問内容が価値観を深掘りする方向に寄っており、学生の企業選びの軸も理念や価値観にあります。カルチャーをアピールしたい自社にとって、『WinC Audition』は理想的な採用を行えるイベントです」

参加企業:エムピーキッチン 新谷氏

「同イベントの魅力は、一般的な合同説明会と違いほぼすべての参加学生と会話できることです。プロフィールカードから学生の情報を事前に知れるので、スムーズに会話を進められるのも魅力的です。

弊社は24卒から初めて新卒採用に参画したのですが、企業認知度の低さやノウハウがない中での採用活動は困難を極めていました。そこで同イベントに参加したところ約50名の学生とコミュニケーションを取ることができ、特に苦戦していた母集団形成の問題が一気に改善しました。このようなイベントは滅多にありません。

実際に集まっている学生のモチベーションが高く、事務局の対応も丁寧で、とても雰囲気の良いイベントです」

参加学生

「まだ内定がなく、就職活動のきっかけになると思い知人からの紹介で参加しました。普通なら社長・経営者の方とお会いできるのは最終面接の時なので、最初から社長さんとお話できる機会はなかなか無いと感じました。

他大学の学生と就活について話せたのも嬉しかったです。みんなで頑張ろうと励ましあい、就活へのモチベーションも高まりました」

「すでに内定は頂いているのですが、より視野を広げた選択がしたいと思い参加しました。将来は経営者になりたいと考えているので、社長・経営者の方々から直接お話を伺えて大変勉強になりました」

まとめ

企業やその経営者の理念や価値観という「変わらないもの」を軸にしたマッチングを目指す「WinC Audition」。学生と社長が対等に「一緒に働きたい」と思える相手を探す、活気と熱量を感じられるイベントだった。プレシャスパートナーズの今後の取り組みにも注目だ。