企業の人材育成事情最前線:訪問マッサージ「フレアス」の事例


株式会社 フレアス
代表取締役社長
澤登 拓
さわのぼり たく/(サムネイル写真左)

山梨県生まれ。
北京中医薬大学にて東洋医学を学び、帰国後、東海医療学園専門学校を卒業。あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師の国家資格を取得し、治療院にてマッサージ師の道へ。寝たきりになってしまう被介護者が多い日本の在宅介護の現状を目にし「この状況を変えたい」との思いで、2000年に「ふれあい在宅マッサージ」を設立。在宅マッサージ事業をスタートする。2011年にはさらに幅広く医療を在宅の現場に提供していきたいと考え「株式会社フレアス」に社名を変更する。現在は、北海道から沖縄まで日本全国に事業所を展開。在宅マッサージ、訪問看護など、『日本の在宅事情を明るくする』というビジョンに基づき日々活動に励んでいる。東京医科歯科大学大学院(医療管理学)修了。

管理本部 人事部 部長
近藤 理比古
こんどう みちひこ/(サムネイル写真右)

大学卒業後、数社で採用・育成・労務・人事制度構築等、幅広く人事業務を経験。株式会社フレアスに入社し、社員育成体系の構築、人事制度を含めた働く環境の整備に注力して取り組んでいる。

人材不足が業界を問わず叫ばれる昨今、「社員にどのように働き続けてもらうか」が大きな関心ごととなっている。

ビジネスパーソンが実際に退職を選んだ理由として、「自己の成長」や「やりがい」といったキャリアの問題を挙げる人が多いというVORKERSの調査が出ている。働き手に選ばれるためにも、企業の中で「成長できる環境」や「やりがいを見出せる環境」を整備することが求められているのだ。

そんな中で、研修サービスを上手く利用し育成体系を整え、全国のスタッフの教育を行っている企業がある。在宅での訪問マッサージを提供する株式会社フレアス(以下フレアス)だ。「在宅介護に苦しむ人を一人でも減らそう」と2000年に山梨県で創業したフレアスは、北海道から沖縄まで38都道府県102拠点(※2018年12月現在)に広がっている。

「ホスピタリティ」を強みに持つフレアスにとって、「人」は財産。スタッフが質の高いサービスを提供できるようにするためにも、「働く環境の整備」と「教育」には力を入れているという。そんなフレアスの人事制度について、代表取締役社長の澤登氏と、人事部の近藤氏にお話を伺った。

働く環境の整備

フレアスが力を入れているのは、ITによる働き方の改善だ。スタッフ全員にiPadを配布し、施術の記録やスタッフ同士の連絡ができるようにしている。この施策の背景には、どのような課題があったのだろうか。

「施術後にはスタッフにサービスの報告書を書いてもらっているのですが、事業所に戻ってから入力したり、就業時間前に報告書を入力したりしていたため大きな負担となっていました。残業も増えてしまっていましたね。当社の場合、時短で働いている主婦のスタッフもいますし、採用時にも残業を気にする候補者が多かったので、なんとか解消していきたいという思いがありました」(近藤氏)

「また、連絡手段も課題でした。訪問マッサージのため、スタッフみんながバラバラに動いていることもあり、会議で一同に集まることが難しかったのです。iPadで報告することで、そうしたコミュニケーションも増やすことができるのではないかと考えました」(近藤氏)

iPadの導入によって、移動時間等の隙間時間に報告書を書くことができるようになり、残業時間の削減につながったという。有給休暇の取得率も上がり、今では80%〜90%の取得率になった。

当初はiPadを使ったことがないスタッフの間にとまどいもあったそうだが、地道な研修により、定着も進んでいる。今では「iPadがなかったら困る」という声も出てきているそうだ。

教育環境の整備

働く環境の整備と同様に、フレアスが力を入れているのが教育だ。新人はもちろん、2年目以降のスタッフにも、OJTと集合研修を実施。研修に掛ける費用は、一人当たり約100万円だという。「見て覚える」文化の強いマッサージ業界の中で、ここまで研修に力を入れているのは珍しい。

こうした手厚いスタッフ教育もあり、サービスのクオリティー・コントロールを得意とするフレアス。だが、「マネジメント」という部分で課題があった。

マッサージ師としてキャリアを積んできた人材も、上の立場になればマネジメント能力が求められる。そんな中で、「どのように部下の指導・管理をしたらよいのか分からない」という声が現場から多く出てきたという。

「ここ数年の一番の課題は『マネジメント能力をどう上げていくか』でした。マッサージ師はマネージャーではありません。マッサージの技術を持つ人間が、マネジメントも得意だとは限らない。むしろ、得意ではない人が多いのです。チームをまとめるのに苦労しているところです」(澤登氏)

「北海道から沖縄まで事業所が散らばっているため、一同に集めて研修するのにもかなりのコストが掛かります。マネジメント層でも、現場で訪問マッサージに従事している者が多いため、3日間研修に来てもらうと、売上に響いてきてしまうのです」(近藤氏)

そこで、フレアスが導入したのがビジネススキルの動画学習サービス「グロービス学び放題」だ。マネジメントやクリティカル・シンキングなどのビジネススキルを、動画で学べるサービスである。タブレットやスマートフォンを活用して、いつでもどこでも学習を進めることができる。

スマートフォンやタブレットのアプリで、ビジネススキルを学ぶことができる「グロービス学び放題」

「インターネットを通じて、どこにいても同じ環境で学べるということで活用させていただきました。北海道から沖縄まで全国一律で、全員に同じ教育を受けさせられるというのはよいですね」(澤登氏)

「1つの動画が数十秒から数分とコンパクトでありながら、濃い内容であった点が決め手で、社員研修に採用させていただきました」(近藤氏)

特にフレアス社員に人気なのは、メンバーの力を引き出し、リーダーとして組織で成果を出すための知識を学ぶ「リーダーシップ」の講座だという。

「『リーダーシップ』といっても言葉しか知らない」というフレアス社員が大半だった中、動画で学ぶことによって、実際の考え方ややり方を学ぶことができるようになったそうだ。

「『今まではなんとなくマネジメントしてきたけれども、自分の組織の課題や現状を踏まえて、適切なマネジメントの重要性を学ぶことができた』という声が多かったですね。動画によって現場の課題や部下について知ることの重要性を学び、メンバーに声を掛ける回数が増えたという感想もありました」(近藤氏)

グロービス学び放題は、実際のビジネスシーンを想定した会話の事例も多い。そうした例が豊富な点も分かりやすく、好評だそうだ。

「ビジネスに関する知識や経験を持たない現場スタッフにとっても、理解しやすかったという声が多数あがっています」(近藤氏)

実際のビジネスシーンを想定した会話の事例も豊富だ

フレアスの場合、「グロービス学び放題」の活用の仕方も特徴的だ。

現場所長など全管理職に動画を閲覧させるとともに、月に1つテーマを決めてレポートを提出させているという。そのレポートの中から、「自社に引き寄せ何らかの示唆を出しているかどうか」などを評価し、人事評価の参考にしているというのだ。

「純粋に学ぶ姿勢というのは文章に出てくるものです。曖昧な言い方や感想だけを提出するメンバーと、組織全体を見渡して具体的に業務に落とし込んで考えられるメンバーでは、学ぶ姿勢が全く異なります。こうしたレポートの評価を、昇進の人事考課の材料にしました。人事の立場としても、非常に参考になりましたね」(近藤氏)

働く環境の整備と人材育成は両輪

実務とマネジメントの両面で、充実した社員教育を実施しているフレアス。「手厚い教育を受けて成長したい」と入社を希望する人も出てきているという。

最後に、お二人に今後どのように人事制度を固めていきたいか伺った。

「働く環境の整備と人材育成は、つながっているものだと思います。教育をすればするほど生産性は向上するのではないでしょうか。そのためにも、ITはどんどん活用していきたい。実際、iPadの導入によって、残業は減るのに生産性はあがっています。こうした相乗効果をどんどん作っていきたいです」(澤登氏)

「『組織マネジメントやリーダーシップに興味関心が出てきて、もっと学びたいと思うようになった』という声も社内で挙がってきています。そのようなことを体系的に学べるような研修の構築をしていきたいと考えています。現場で役立つ技術と、マネジメントスキルなどのビジネススキルの二本柱を大切にして、教育カリキュラムを作っていきたいですね」(近藤氏)

ビジネスを学べる動画学習サービス『グロービス学び放題』概要はコチラ

(文・撮影/HRog編集部)