エンジニア組織のマネジメント問題 原因と1on1を活用した解決策とは

ファインディ株式会社 / Findy Inc.
代表取締役
山田 裕一朗氏
やまだ・ゆういちろう/ファインディ株式会社 三菱重工業、ボストン コンサルティング グループを経て、2010年 創業期のレアジョブ入社。レアジョブでは執行役員として人事、マーケティング、ブラジル事業、三井物産との資本業務提携等を担当。その後、ファインディ株式会社を創業。

エンジニア求人が増加している昨今、「技術理解が難しい」「成果物以外をどう評価していいか分からない」など、エンジニアのマネジメントに課題を抱えている企業が増えている。エンジニアの仕事をデータ分析を利用して評価したり、1on1でエンジニアとの相互理解を図ったりと、それぞれの課題解決のために試行錯誤している企業も多いのではないだろうか。

今回はファインディ株式会社の代表取締役社長である山田氏に、エンジニアマネジメントの現場で起きている問題とその解決策としての1on1の活用について伺った。

エンジニアマネジメントにおける問題点

エンジニアマネジメントにおける問題とはどのようなものなのだろうか。

「そもそもエンジニアの数に対して、エンジニアマネージャーが足りていません。領域の特性としてマネジメント経験を持っていない人が多いことと、一度マネージャーになっても再びテックリードなどのプレイヤーに戻る人が多いことが理由です。もともとテックリードを目指す人が全体の5~6割で、エンジニアマネージャーを目指す人は1割程度なんですよ」

Findy調べ(昨年会員の442名のエンジニアが回答) 2020-3-10 「Findy Engineer Lab」記事より

エンジニアのキャリアには、大きく分けて2つの道がある。技術のプロフェッショナルであるテックリードを目指す道と、組織全体の管理を行うエンジニアマネージャーを目指す道だ。

たとえば法人営業の平均年収が約430万円であるのに対し、営業マネージャーは約530万円程度である(マイナビAGENT調べ)。マネージャーになることが収入に大きく影響するため、多くの営業はある程度経験を積んだあとは管理職を目指す。

しかしエンジニアは個人のスキルでレバレッジが効くため、テックリードになれば年収も上がっていく。テックリードの平均年収は約850万、対してエンジニアマネージャーの平均年収は約880万円(ファインディ調べ)と、必ずしもマネージャーを目指す必要がなく、それがエンジニアマネージャーの不足に繋がっているという。

エンジニアマネージャーの仕事はもっと評価されるべき

エンジニアマネージャーを目指すエンジニアが少ない理由の一つに、求められるスキルの複雑さがあるという。エンジニアマネージャーの仕事の難しさはどこにあるのだろうか。

「1つ目に、エンジニアマネージャーには技術力とヒューマンスキルの両方を求められます。テックリードもコードレビューをするので、的確な指示や相手を傷つけない伝え方など、一定以上のヒューマンスキルが必要です。しかし、エンジニアマネージャーはメンバーの本音を聞いてケアしたり成長を促したりすることが仕事なので、より会話を深堀りする力が求められます。体感的にも、エンジニアは本音をガンガンいうタイプの人が少ないので、営業マネージャー以上に傾聴力が問われます」

エンジニアは目標が立てにくく、評価しにくい

エンジニアマネジメントが難しいもう1つの理由は、定量的に評価できるものが少ないことにある。例えば営業なら売り上げ、メディアならPVなどを数値的な目標として掲げることができる。しかしエンジニアの場合、単にソースコードをたくさん書けば評価が上がるわけではなく、前提条件の確認から設計の良し悪し、実装方法や実際の運用時のパフォーマンスなどを多面的に評価する必要がある。

最近では、エンジニア領域でも定量的な目標を立てようとする会社も増えているという。Atlassianの課題管理ツール「Jira」などを利用してタスクの消化度合いを評価したり、サービスのリリース日を目標として設定したりという方法だ。しかしこのような目標は、ビジネスサイドの方針転換で不可抗力的に変化してしまうという難点もある。

「技術的なことを理解して評価しつつ、ヒューマンスキルも高くなければいけない。要求の高さを考えると、エンジニアマネージャーの世間的な価値はもっと上がるべきです」と山田氏は語る。

エンジニアマネジメントに1on1はどう役立つ?

以上のような問題を解決する取り組みの1つとして、1on1が注目されている。1on1とは、上司と部下が1対1で行う定期的な面談のことである。エンジニアマネジメントにおいて、1on1はどのように役立つのだろうか。

「1on1の一番の意義は、目線のズレを解消することです。売り上げなどの数値で見える目標はズレにくいですが、エンジニアや管理、経理、広報などの目標設定を数値化できない職種は、目標やゴール、課題などの目線がズレやすい。つまり、自分が今何のために何をしているのかを見失いやすいんです」

エンジニアの仕事は新規サービス・社内システムの開発や運用、セキュリティ強化など、効果が見えるまで半年以上かかるものが多いため、すぐには感謝や評価をされづらい。だからこそ1on1を活用し、会社の進む先と自分が今やっていることを繋げるというフォローが大切になる。リモート勤務が普及し、コミュニケーションが希薄になりがちだからこそ、できていないことの指摘よりもできていることをしっかり伝えてあげることが重要だ。

効果的な1on1のやり方とは?

では、1on1をより効果の高いものにするためにはどのような工夫が必要なのだろうか。山田氏は対エンジニアならではの留意点として以下の点を挙げた。

「エンジニアは仕事柄、言葉の定義を細かく気にする人が多いです。だからあいまいな表現を避けロジカルに話すこと、具体的で誤解のない言葉を使うようにすることなどが有効です」

またエンジニアマネジメントに限らず、1on1の頻度はきちんと検討する必要があるという。

「毎週1on1があると、どうしても同じような話の繰り返しになり、新規性が薄いと感じる傾向があるようです。1on1のマンネリ化や形骸化にも繋がってしまいます。私の周囲では隔週が支持される傾向がありますね」

1on1の要らない会社こそ、真にマネジメントが上手くいっている!?

「実は、一番エンゲージメントが高い組織は1on1をやっていないんですよ」と言う山田氏。その真意を聞いた。

「普段からコミュニケーションがあって、悩んだらすぐに相談できている会社の方が、意図的に1on1を組んでいる会社よりも圧倒的に上手くいっています。そのような会社は、月に1回か2か月に1回程度1on1をやればズレがなくなるんです」

普段からコミュニケーションが取れていれば、むしろ1on1を頻繁に行うことが無駄になり不満に繋がる。各社のマネジメントレベルに合わせた頻度・やり方の最適解を見つける必要があるだろう。

「究極的には、マネジメントなんかしなくても機能している組織が一番いいんです。すでにGAFAなどトップレベルの企業の一部では、極めて自走的なエンジニア組織が構築されています。エンジニアが『これをやりたい』という提案をして、賛同者が集まるとプロジェクトとして始動する。どのプロジェクトをやるかはエンジニアの力量に任されます。評価は360度評価で、自分を評価してほしい人を選んで四半期評価してもらい、逆に自分も選ばれたらちゃんと評価します。

その素地としてあるのは、『良いチームとはどういうチームなのか、いい状態とはどういう状態なのか』をチームで定義して共有すること。これがメンバーの納得感に繋がり、自立したエンジニア組織の構築に繋がっているのだと思います」