ディップ株式会社の決算情報分析(2016年2月期第二四半期)

ディップ株式会社の2016年2月期第二四半期の決算が10月13日に発表されました。
ディップは売上高・営業利益ともに大幅に伸びており、営業利益率も増加しています。
これは、どのような理由によるものでしょうか?今回は、決算説明資料から分析を行ってみました。

ディップ株式会社の今期第2四半期業績について

ディップの今期第2四半期決算説明資料を見ると、前期と比較して非常に良い業績となっています。

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同資料には、今期の業績上昇の理由が大きく3点記載されています。

新卒300人採用によるマンパワー増加

AKB48を起用したCMによる知名度向上

求人倍率上昇による需要増加

これらの記載から、

景気の上昇に伴う求人倍率の増加という追い風の中で大々的な宣伝と人海戦術で一気に売上を伸ばしたというストーリーが見えてきます。


しかし、そうした見方をした場合、来年度以降の業績について

・景気の頭打ち、あるいは下降による急激な売上減少

・人員増加による固定費上昇に伴う利益率の悪化

このようなリスクが気になってきます。

果たしてディップの業績は、景気に依存した一過性のものなのか、今後も継続した成長が見込めるのか。決算説明資料から分析を行いたいと思います。

ディップの広告宣伝戦略について

ディップの広告宣伝費は、以下のとおり

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前年度が約27億円に対して9億円増加の35億円となっています。

AKB48をイメージキャラクターとして、積極的なTVCFを展開したと記載されており、
TVCFに加えて、以下の3点が記載されています。

・様々な媒体を使用したメディアミックス展開
・主婦層をターゲットとした広告展開
・スマホへのシフト

従来、アルバイト系の求人広告分野では高校生・大学生をメインターゲットとしたメディア展開を行われてきました。
これに対して主婦層のアルバイト・パート探しは新聞の折り込み広告というイメージで住み分けがなされていました。

しかし、ディップは従来のイメージを打ち破り、主婦層へのPRを大胆に行いました。

AKBの母をTVCFに起用し、TVだけではなく、全国のイオンレジ付近でのデジタルサイネージ広告での放映も行いました。

アルバイト系の求人広告分野で主婦層をターゲットにする戦略は、革新的であり、主婦層という競合の少ない市場(ブルーオーシャン)で、大きく知名度を上げることに成功したと思われます。
(この場合の市場とは、顧客(広告主)ではなく、求職者の市場を指します。)

また、AKBの母娘が共演しているTVCFでは、母娘が一緒にスマホでバイト探しをしており、ディップがスマホへのシフトを狙っていることがわかります。
TVCFによってスマホへのシフトを誘導するとともに、スマホ内のアプリ「LINE」においてもキャラクタのスタンプを無料で配布するなどの広告活動を行っています。

ディップの競合他社となるタウンワーク、anは、フリーペーパーなどの紙媒体を持っており、紙媒体に出稿している顧客の手前、スマホへの誘導を前面に打ち出しづらいという弱点を持っています。ディップは紙媒体を持っていないという点を逆にメリットととらえスマホへの誘導を前面に押し出しています。

スマホアプリにおいて、バイトルは
・認知度
・直近訪問
・直近応募
の3項目においてユーザー評価一位を獲得しています。
競合他社に勝つために、力を入れて開発を行った結果だと思われます。

このように分析すると、ディップの業績上昇の背景が単なる景気上昇と広告宣伝のバラ撒きによるものではなく、戦略的な集中と選択の結果だということが見えてきます。

事業セグメントの分析

ディップの事業は以下の3つのセグメントに分類されています。

バイトル事業(アルバイト専門求人媒体)
はたらこねっと(派遣専門求人媒体)
ナースではたらこ(看護師専門人材紹介)

バイトル事業とはたらこねっと事業を比較した図は以下のとおり、

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2009年度で比較すると、はたらこねっと事業の方が売上が高くなっています。しかし、リーマンショックに伴う派遣切り問題の影響で2010年度以降は売上が減少しています。一方、バイトル事業は2010年度以降、売上が上方に推移しています。

実は、この2つの事業は相互補完関係にあります。
派遣切りという社会問題の発生により、派遣労働者を使いづらくなった企業はアルバイト、契約社員による採用に切り替えました。
この時に、アルバイト、契約社員の求人が増加し、バイトル事業の売上が伸びたという構造になっています。

ディップは、派遣切り問題によって主力事業であるはたらこねっとの売上を落としたものの、バイトル事業によって売上を補完することができたのです。その後、バイトル事業は売上を伸ばし、はたらこネットの売上を抜き、ディップの主力事業となっています。

では、ナースではたらこ事業はどうでしょうか?
ナースではたらこ事業は、はたらこねっとの売上が急減した2010年度に開始しています。この苦しい時期に新規事業を立ち上げた理由は何なのでしょうか?

アルバイトや派遣労働者の求人数は景気によって大きく変動します。
今期は景気の上昇に伴う求人倍率の急増により売上を伸ばすことができましたが、次に不景気になった時には逆の動きが予想されます。

となると、景気の変動によらず安定した需要が見込める事業による補完が必要となってきます。
2010年度、リーマンショック不況による業績の急減を経験したディップは、景気の変動によらない安定した売上が見込める事業を模索した結果、看護師の紹介事業に辿り着いたのではないかと思われます。

医薬品、病院業界は景気の変動を受けにくい業界と言われ、さらには、日本の高齢化による医療業界の市場の伸びが予測されています。景気の変動に左右されず、今後の拡大が見込める事業といえるのではないでしょうか。

とはいうものの、2010年度の事業開始以降3年間は赤字状態が続いている。業績が低迷する中で赤字事業を継続することは厳しい選択だったと思われます。しかし、ディップは地道に事業を継続して、4年目には黒字転換(実質数値)に成功しています。

ディップの今後の戦略

以上の分析によって、今期の成長を実現したディップの戦略が見えてきた。ディップの今後の動きを予測してみます。
求人媒体事業に続く新しい事業として立ち上げられたナースではたらこ事業。この事業は

・人材紹介事業
・医療業界での事業

という2つの見方ができます。

人材紹介事業という見方をすると、求人広告事業との垂直統合モデルと考えることができます。
自社の媒体に求人広告を出して募集を行い、自社で紹介をするというビジネスモデルです。
バイトルという求人広告事業から、アルバイト・契約社員を紹介するビジネスモデルへの展開が考えられます。

また、医療業界での事業という見方をすると、看護師に続いて医師の紹介や臨床検査技師、医療事務員など、医療業界での人材紹介サービスとして裾野を広げていくことも考えられます。
それぞれの事業に共通する強みとしては、スマホによる使いやすい求人サイトの構築。メディアを積極的に利用した知名度向上のノウハウとなります。

今期の業績急増による利益を資金に更なる投資、事業展開が行われることが予想されます。
今後、ディップがどのような戦略でどのような事業を展開していくか非常に興味深いですね。