【バイトル20周年の軌跡#05】社会全体の労働力不足解消へ バイトル責任者が描くこれからの20年

ディップ株式会社
執行役員 サービスオフィサー(バイトル・バイトルNEXT)エリア事業本部長
井上 剛恒 氏
いのうえ・たかつね/2006年新卒でディップ入社。派遣会社・人材サービス会社を主な顧客とするHR領域で採用コンサルタントとして従事、管理職を経て2017年に最年少で執行役員に就任。現在は全国800名を超える従業員が採用支援を行う組織のマネジメントを担うとともに「バイトル」「バイトルNEXT」のサービス責任者を務める。

バイトル20周年の軌跡

2022年10月21日、ディップ株式会社が運営するアルバイト・パート求人情報サービス「バイトル」は20周年を迎えた。2002年のサービス開始以来、「ユーザーファースト」を貫きさまざまな取り組みを行ってきたバイトル。今回の特集ではその軌跡を振り返り、これから新たに描く20年について話を聞いていく。

特集の最終回となる今回は、バイトルの責任者である井上氏にこれからの20年の展望について話を伺った。

ユーザーファーストを追及し続けた20年

現在「バイトル」と「バイトル NEXT」 の サービスオフィサーとして、営業・商品開発・マーケティングの責任者を務めている井上氏。そんな同氏はディップのこれまでのあゆみについて、「ユーザーファーストを追及し続けた20年だった」と振り返る。

「バイトルでは『ユーザーにより良い仕事探しを』という思いから、職場の様子が動画で閲覧できる機能やしごと体験・職場見学機能など、今まで他社が取り組んでこなかったサービスを次々と立ち上げてきました。それらのサービスが世の中に浸透し、多くのユーザーから支持をいただけるようになったのは大きな成果だと考えています。

私たちは求人業界の中では後発組の会社でしたが、今ではアルバイト求人広告の業界で一二を争う規模にまで成長できました。それも、ユーザーファーストを実現するために行った地道な取り組みの結果だと思っています」

ユーザーファーストの考え方は営業の仕方にも現れている。

「当社の営業は、採用コンサルタントとして、お客様へのアポイント獲得から取材、撮影、求人原稿作成など求人募集までの業務全般を一人で行っています。なぜかというと、自分たちが取り組む仕事それぞれが、ユーザーやお客様、そして社会に対して役立っているという実感を抱くことができるからです。アポイントを獲得してお客様の課題を伺い、取材に行って実際に働く方たちの顔を見る。そういった行動があるからこそ、社会を良くしていきたい、ユーザーにもっと幸せに働いて欲しい、といった思いや夢が生まれてくるんです。手間をかけた活動ですが、一人あたりの生産性は高い成長を遂げています。

また、2022年4月から開始した『dipさんからのメッセージ』というサービスも、第三者が見たリアルな情報を求職者に伝えたいという思いから誕生したものです。インターネットを通じた仕事探しが一般化している中で、就業後に条件や環境のミスマッチにより早期離職してしまう方もいらっしゃいます。求人情報サービスとして、求職者に向けて信頼性の高い情報を早く、正しく発信することが大切だと考えています」

ユーザーの一人ひとり、クライアントの一社一社に丁寧に向き合う姿勢もdipの強みであり、この20年間の成長を支えてきたものだと言える。

これまでの出来事を振り返る中で、特に井上氏が印象に残っている出来事として、2010年ごろの動画サービスを立ち上げた時のことを語ってくれた。

「2010年はまだガラパゴスケータイが主流で、動画を閲覧する文化がなかった頃。『これからは動画で職場の雰囲気を伝える時代が来る』という確信はあったものの、前例のないサービスだったため、お客様からの賛同をなかなか得られませんでした」

そんな壁を打開したのは、メンバー一人ひとりの「情熱」だったと井上氏は続ける。

「これはユーザーにとって素晴らしいサービスである。ユーザーが喜ぶことで企業も自社に合ったユーザーと出会える機会が増える。メンバー全員がそう信じて、強い情熱でお客様に伝え続けたことが大きなポイントでした。ただ機能を説明するだけの提案では、きっとお客様の心は動かせなかったと思います。

ディップ(dip)という社名は夢(dream)、アイデア(idea)、情熱(passion)の頭文字をとったものです。『動画で仕事を探せる、素晴らしい世の中をつくっていくんだ』という夢とアイデア、それを実現するための情熱を持って動き続けた結果動画サービスの立ち上げが形になったときは、まさに社名であるd,i,pを全員で体現できたと感じました」

これからも、働く人と企業に寄り添う企業でありたい

次に、井上氏にこの先20年間やりたいことを聞いた。

「 バイトル立ち上げ時からの思いとして、有期雇用労働者の方たちの待遇改善や地位向上に取り組んでいきたいという気持ちは変わりません。徐々に改善してはいますが、低賃金、仕事の不安定さ、社会保障や就労支援の手薄さなど、課題も多くあります」

また、労働力人口の不足という社会課題の解決にも取り組んでいきたいという。

「2030年の日本では約650万人も労働力人口が不足すると言われています。そのときに、一番危機的な状況に陥るのは中小企業です。その意味で、企業の生産性を高めるDX(デジタルトランスフォーメーション)に最も取り組むべき会社は中小企業と言えるでしょう。それにも関わらず、現在DXの多くはITリテラシーの高い企業や資金に余裕のある大企業で実施されており、本当にDXが必要な企業ではなかなか進んでいないというジレンマがあります。

現在ディップでは、中小企業向けの業務支援サービスとして、定型業務を自動化するコボットシリーズというサービスを展開しています。コボットシリーズを磨き、誰でもどこでも簡単に使えるようにすることで、中小企業の方たちが定型業務から解放され、もっと自分らしい仕事・働き方を選べる世界をつくっていきたいです」

そして業界のオピニオンリーダーとして「求人業界全体を巻き込みながら、働く人と企業が幸せになるための取り組みをリードする存在でありたい」と語った。

「過去にディップでは新型コロナウイルスの感染拡大が始まってすぐの2020年3月に、罹患した方への経済的支援策を実行しました。そのときに新聞へ意見広告を掲載するなど思いを届けた結果、徐々に政府や自治体でも有期雇用者向けの休業支援策が充実してきました。

私たちのような民間企業が働く方に代わって声を上げることで、世の中全体を良くすることができるんだと実感しています。だからこそ求人業界が一丸となってより社会のあり方を考えて伝えていくのが大切だと思っていますし、ディップのサービスを通じて企業や仕事に出会った一人ひとりに幸せになってもらいたいと強く思っています」

自分たちの仕事が、誰かの人生に良い影響を与えられると信じて

井上氏は、今後も求人業界関係者とは「社会全体の労働力不足解消へ向けて手を取り合っていきたい」と語る。

「介護や建設などの業界では求人倍率の高い状況が続き、人手不足に悩んでいる一方で、特定の職種に求職者の人気が集中しすぎてしまって仕事に就けないという方もいらっしゃいます。また、ジェンダーや年齢が理由で採用を見送られてしまうこともあります。労働力不足の問題を解消するには、まずは求職者や企業が持っている働くことに対するバイアスを取り払うことが大切です。そして求職者に新たな業界の魅力に気付いてもらい、労働移動を起こしていくことが重要となるでしょう。

このバイアスを取払い、さまざまな人材が活躍できる環境をつくってもらえるように企業に働きかける役割、そして活躍できる環境があることをユーザーにきちんと伝える役割がメディアにはあると思っています。社会をより良い方向へ改善したいという思いを持つ企業とともに、今後も取り組みを進めていきたいです」

最後に、ディップで働くメンバーへ向けて井上氏は「自分たちの仕事が、誰かの人生に良い影響を与えられると信じて働いてもらいたい」とメッセージを送った。

「目の前の業務に追われていると、自分が社会の役に立っているという実感はなかなか沸きにくいと思います。しかし、働く方と企業をつなぐこの仕事は、1人の人生や幸せを大きく左右する仕事なんです。

ディップでは2022年から、『バイトル』などディップのサービスがきっかけで採用されたスタッフさんの声をインタビューして理解を深め、さらなるクオリティ向上につなげるプロジェクトを開始しました。その取り組みを通じて、自分たちの仕事が社会的に意義のある仕事だということを感じてくれる機会が増えたと思っています。一人ひとりがそのことを忘れず目の前の業務に取り組み、社会やユーザーがもっとHAPPYになる世界をつくっていきましょう」

これまでも業界に先がけた様々な取り組みで、社会に影響を与えてきたバイトル。しかし、中で働く人々は決してここで満足することなく、より多くの人や会社を幸せにしていきたいと気概を語ってくれた。バイトルが歩む新たな20年はどうなるのか、注目だ。

(鈴木智華)