パーソルキャリア株式会社
クライアントP&M本部 プロダクト統括部 HR Forecaster部 リードディレクター
友田 麻子 氏
ともだ・あさこ/自由な学生生活を送り、卒業後はコンサルティングファームに就職。システム開発や人事制度設計、組織改革、新規事業などに関わった経験から、「人が生き生きとはたらく」を自分で実現したいと思い、2021年4月にパーソルキャリアに転職。PMOとしてtoCサービスの立ち上げに関わった後、「HR forecaster」に参画し、1年目で「ヒアリングノート」を企画・リリースした。
パーソルキャリア株式会社が運営する求人要件支援サービス「HR forecaster」は、求人票に記載する職務内容を充実させる新機能「ヒアリングノート」をリリースした。「ヒアリングノート」は募集を行う職種を選択するだけで、求人票を作成する際にヒアリングすべき項目を提示してくれる機能だ。今回はHRog編集部が「ヒアリングノート」を実際に体験。さらに、開発に携わった友田氏に開発の背景や裏話を伺った。
求人票作成の工数を減らす「ヒアリングノート」とは
2023年7月12日に「HR forecaster」が追加した新機能「ヒアリングノート」は、募集を行う職種を選択すると、求人要件の決定に必要なヒアリング項目を自動で提示してくれる機能だ。専門的な内容も網羅されているため、それらの項目を現場社員にヒアリングしてまとめるだけで、採用担当者の経験や知識にかかわらず充実した求人票の作成が可能となる。
転職サービス「doda」が行った調査では、応募する際に転職希望者にとって一番の決め手となる項目は「仕事内容(詳細)」が34.5%で最多だった。しかしながら、「HR forecaster」が行った調査では、のべ31%の採用担当者が求人票作成時の「求人の言語化」に課題を感じていると回答している。
「求人票に書いてある情報の中でも、どんな仕事ができるか、自分の培ってきたスキルを活かせるかなどの『仕事内容』は転職希望者が一番重要視している部分です。にもかかわらず、仕事内容の解像度が低い求人票をよく目にします。面接に行って現場の人と直接お話するタイミングではじめて細かい業務内容を知り、『思っていたのと違った』とギャップが生じてしまうケースも少なくありません。
DX推進やUX設計など近年ニーズが高まっている領域においては特に、人事担当者の方が求人票にどんな情報を記載すべきか分からず、現場に十分なヒアリングができていない状況が見受けられます。私たちも『HR forecaster』で人事の方にインタビューをする中で、『はじめて採用する職種で何を書けばいいのか分からない』や『候補者の方がどういう情報を求めているのか分からない』といったお声を沢山耳にしました。現場の方に『人事は分かってない』と思われるのが怖いと感じる方もいらっしゃいます。そのため人事の方の多くが、ヒアリングに行く前の下調べに多大な工数をかけているんです」
こうした課題を受け、人事担当者の負担を削減するべく同社は「ヒアリングノート」開発に踏み切った。開発には、今まで多くの企業を支援してきた同社ならではの知見が活かされているという。
「『ヒアリングノート』の原型は、元々社内でリクルーティングアドバイザーが使用していたヒアリングシートでした。これは、アドバイザーが企業様に人材要件のヒアリングをする際に聞くべき項目をまとめたシートで、企業様を長年支援する中で徐々に社内で参考資料として作られた虎の巻のような存在です。
この原型に転職希望者側のヒアリングを行うキャリアアドバイザーの知見を反映して、『ヒアリングノート』はつくられました。どんな職種の人がどういった理由で転職を考え、それを踏まえて転職時にどの項目を重視する傾向にあるのかなど、蓄積していたナレッジを反映して転職希望者の知りたい項目を網羅した質問項目にしています。
実は『ヒアリングノート』自体が、こうした社内資料の存在をもとに発想された機能なんです。社内各所に点在していた情報を集めて整理し、どんな仕様なら喜んでもらえるか構想を詰めていく作業は大変でしたね。
また開発の上で、使いやすさと網羅性のバランスには試行錯誤しました。充実した求人票を作るには一定の網羅性と密度がある情報が不可欠です。かといって記入項目を細かくしすぎれば工数が増え、そもそもの開発の目的から外れてしまいます。情報を減らしすぎず、増やしすぎずのちょうどいいバランスを探りながら可能な限り使いやすい形を模索しました」
「ヒアリングノート」募集職種の知識ゼロでも求人票が作れるか試してみた
採用に長年関わってきた同社の知見と、使いやすさの工夫がつまった「ヒアリングノート」だが、実際の使用感はどうなのだろうか。また「募集職種の知識ゼロでも求人票が作れる」は本当なのだろうか。そこでHRog編集部が実際に使用し試してみた。今回は「年収500〜700万円・主任相当クラスのWebサービス系エンジニア」を採用する求人票を作成する。
実際に使用する前に、まずは比較のため、採用経験もエンジニアの知識も全くない筆者が自力でヒアリング項目を洗い出し、求人票を作ってみることにした。手始めに「エンジニア 求人票 書き方」などと検索しながら、必要な項目を以下のようにリストアップした。
・仕事内容
・応募理由
・必須スキル
・歓迎スキル
・勤務地
・勤務時間
・福利厚生
・休日休暇
大変なのはここからだ。「仕事内容」や「必須スキル」などの解像度を上げる質問を用意したいが、これが難しい。普段業務上で直接関わりのない「Webサービス系エンジニア」が何の仕事をしているのかよく分かっていないため、現場が何を求めているのかも、転職希望者が何を知りたいのかも全く見当がつかない。「使用言語は?」や「何年以上の経験が必要か?」など、思いついたヒアリング項目を使ってヒアリングをし、作成した求人票が以下だ。
今度は「ヒアリングノート」を使ってみる。職種や雇用形態などの基本事項を選択し、「作成開始」をクリックすると、早速ヒアリング項目が表示される。
まずは採用背景について。入力は基本は選択式、希望があれば自由入力で詳細の補足もできる。
次に職務内容についてだ。誰向けのシステムか、ポジションの詳細など、エンジニア職に馴染みのない筆者には思いつかなかった項目が出てくる。
「開発環境」の欄では、「自社開発か一次請けか」などの案件の立ち位置や、具体的な担当工程など転職希望者の知りたい仕事の詳細が網羅されている。さらに開発言語、OS、DB、フレームワークなどの専門性のある部分は選択式になっていて分かりやすい。こうした細かな開発環境は、エンジニアにとって、自分の働きたい環境か、自分が活躍できるかを見極めるために把握しておきたい部分だ。しかしエンジニア職に馴染みのない採用担当者の場合、専門的な項目をすべてカバーするのは難しく、取りこぼしてしまうことも少なくない。
就業環境についても忘れない。部の雰囲気や出張・転勤のありなしなど、こちらもほぼ選択式で、ヒアリングの際はすでにある項目から選んでもらうだけでサクサク進められるのが魅力だ。
入力が完了したら、ヒアリング内容の結果は以下のようにPDF出力できる。
後は掲載先のフォーマットに合わせて少し整理をするだけで求人票は完成する。ビフォーで取りこぼしていた部分を青でハイライトしてみると、その差は歴然だ。エンジニアならではの専門的な項目はもちろんのこと、「5日以上の連続休暇OK」など、転職希望者が気になる部分でありながら書き忘れがちな項目も網羅されている。ここまで内容を充実させるのは、自力では難しいと感じた。
結果、求人票作成や募集職種についての知識がなくても、「ヒアリングノート」があれば特に下準備なしで現場の人と話ができた。専門的な部分から細かな働き方の部分までカバーされているため、自分でリサーチするのと違い、聞き逃した項目がないか心配する必要がない。これだけ仕事内容の情報がそろっていれば、業務やスキルにおける転職希望者とのミスマッチも発生しづらくなるだろう。
マンパワーを優先すべき採用プロセスに工数を割いてほしい
「ヒアリングノート」は、完全無償で提供しているのも特徴だ。人事担当者には、活用によりヒアリング準備の工数を減らし、「より人事としての判断が求められる重要な部分に時間を使えるようになってほしい」と友田氏は語る。
「人事の方は採用だけでなく色々な業務を兼任していて忙しい場合が多いです。また、昨今は採用手法の多様化によって採用業務自体のボリュームも増えています。そんな中で、求人票作成の事前準備に時間をかけなくても、その場でしっかり現場の方にお話を引き出せるようになってほしいと思い、『ヒアリングノート』を開発しました。
『ヒアリングノート』を活用して事前準備の工数を削減し、その分、求人票に自社のカラーを出すための工夫をするなど、より考えることが求められる作業に集中していただけたら嬉しいです」
リリースから2か月経った2023年9月現在、既にユーザーからは「採用業務の負担が削減できる便利な機能ができて嬉しい」「内容が網羅されていて良い」などの声が集まっている。また、社内からも思わぬ反響があったという。
「社内のリクルーティングアドバイザー間でも、『これは使える』と話題になっています。今まで社内各所に点在していたナレッジが綺麗にまとめられているので、これから細かな機能を調整して社内向けのツールも開発を進めていきたいと考えています。まだ職種別の知識がない新人のリクルーティングアドバイザーを中心に活用を広げていく予定です」
「ヒアリングノート」は現在、採用ニーズが高い「ITエンジニア」「総務」「マーケティング」など61職種で展開をしているが、今後はさらに職種を充実させていく。
「『販売・サービス』なども含めた150以上の職種の拡大に向け、データ整理や調査を進めています。さらに機能面では、ヒアリングした項目を最終的なアウトプットとなる求人票の作成にまで連携させ、さらなる工数の削減を実現していきたいです。これからも、『HR forecaster』は採用を開始する前段階からトータルサポートする人事担当者のパートナーとして、取り組みを続けてまいります」