スポット人材活躍の鍵は「人員体制の設計」にあり。内外の垣根を超えたチーム作りとは

株式会社WHOM
取締役COO 
中島 佑悟 氏
なかしま・ゆうご/メディア系ベンチャー企業数社でビジネス部門の立ち上げ等を経験。2018年にエンジニア採用サービスを展開するLAPRAS株式会社に入社。セールス・マーケティングマネージャーに従事。2020年に独立し株式会社de3を設立。UTECベンチャーパートナー。上場企業の採用戦略・ブランディング支援やベンチャーキャピタルの投資先におけるHR支援など、HR・採用支援業務を広く行う。

近年、1日単位でアルバイトができる「スポットワーク」が話題となっている。また採用・マーケティングなど、かつてホワイトカラーの正社員がやっていた業務を細かく切り出して副業・フリーランス人材に任せるケースも増えてきた。このように、短時間ながら企業に関わる「スポット人材」を最大限に活用するために、これからの人事にはどんなマインドが必要なのだろうか。プロの人事・採用経験者をつなぐ採用代行(RPO)プラットフォームを運営する株式会社WHOMの中島氏に話を伺った。

採用部門こそ外部のスポット人材を積極的に活用するべき

2018年の副業解禁以降、副業や短時間勤務のフリーランスとして働きたい人が増える中、中島氏は「採用部門こそ外部のスポット人材を積極的に活用するべきだ」と語る。

「『目標』の振れ幅が大きい採用部門は、組織の中でも人手不足が発生しやすい職種です。営業部門であれば売上目標が『前クオーターの○%』『昨年度の○倍』と定まっており、途中で変わることはあまりないため、目標に合わせた人員が確保しやすいです。

一方で採用部門の目標は、従業員の退職・出産・介護などに大きく左右されます。『先月まで採用目標5名だったのに、急に10名必要になった』といった事態が起こりやすいのです。しかし採用部門はコストセンター(単体では収益を生み出さず、コストだけかかる部門)と見なされやすく、どうしても最低限の目標に合わせる形での人員配置が行われがちです。だからこそ正社員にこだわるのではなく、スポットで入れるプロ人事を上手く活用し、柔軟に体制を構築する必要があります」

同社が運営する「WHOM」は、副業・フリーランスとして働く「採用のプロ」と繋がることができるマッチングプラットフォームだ。単に「採用のプロ」とのマッチングの場を設けるだけではなく、WHOMコンサルタントが間に入り、スポット人事のマッチングから活用までをサポートしてくれる。

WHOMのコンサルティングでは人材をマッチングさせる前に、採用目標・期限のヒアリング→目標に対して必要な業務の洗い出し→人員体制の設計→人材要件の設定という流れでサポートを行う。中島氏によると、スポット人材の活用の肝は「人員体制の設計」にあるという。

「スポット人材を活用するときは、外部メンバーも含めて一つのチームを作ることを意識しなければいけません。『一部の業務を切り出して、依頼できる外部人材に詰め込む』というスタンスだと、いくらスキルのある人材でも上手く活躍しません。事業部や経営層とも関わりを持つことがある採用部門であればなおさらです。

『どういった人材に』『どのくらいの稼働してもらうか』だけではなく、『どう関わってもらうか』まで設計・運用しなければいけない点が、スポット人材を活用する難しさと言えるでしょう」

スポット人材が活躍できないのはコミュニケーションの仕組みが整っていないから

スポット人材の活用時に企業側から出てくる不満として「思ったようなアウトプットが上がってこない」「何をしているのか分からない」などがあるという。そういった不満が出てくる原因としてよくあるものを伺うと、中島氏は下記の3点を挙げた。

スポット人材が活躍できない原因①:レポートラインが明確になっていない

「スポット人材は最低限の事前情報しかない状態でプロジェクトに入ってきます。その状態で『あとはよろしく』と放り出してしまうと、誰に報告や相談をすればいいか分からずチームの和が乱れてしまったり、孤立したりする場合があります。

スムーズに連携をとるためにも、『困ったときは誰に声をかければ良いのか』というレポートライン(報告経路)を設定しましょう。相手が稼働時間が長い人材であるほど、この共有は大事になってきます。また稼働時間の長さにかかわらず、『進捗状況をどれくらいの頻度で、どんな形式で共有してほしいか』を明確にすることで、何をしているのか分からない状態を回避できます」

スポット人材が活躍できない原因②:期待している成果やスタンスが曖昧になっている

「いつまでに、どんな成果を出してほしいかという期待値は必ず認識を揃えるべきです。その上で『どんなスタンスで関わってほしいか』まで伝えている会社は少ないのではないでしょうか? 『気になることがあれば積極的に提案してほしい』という会社もあれば、『マネジメントコストを抑えたいから、決められた業務を堅実にこなしてほしい』というところもあるでしょう。

要件を決める際に、人材のスキルや人数だけではなく、業務スタイルや行動指針の期待も盛り込むことで、その後のスポット人材のマッチング率や活躍度合いが変わっていきます」

スポット人材が活躍できない原因③:人材側のスキル不足

「もちろん、スポット人材側のスキルレベルが合わずに上手く活躍できないパターンもあります。単純にハードスキルが不足している場合もありますが、意外と見落とされがちなのが『自己管理能力』『積極性』などといったソフトスキルや特性です。

そもそも企業にとってスポット人材は手厚くマネジメントする対象ではありません。だからこそスポット人材には、顧客の要望を汲み取り自発的に動く姿勢が必要になります。WHOMではこうしたスキルや特性を『業務委託に必要なスキル・コンピテンシー』と呼んで、プロ人事に対する定期的なスキルチェックと、可視化・改善のための支援を行っています」

企業でスポット人材が活躍するためには互いの歩み寄りが重要だ。「立ち上がりが上手くいかないときでも安易に『人材側のスキル不足』と決めつけるのではなく、自社の環境や体制を振り返ることで、徐々に外部人材の受け入れノウハウが蓄積していく」と中島氏は語る。

「社員」と「外部人材」の垣根のないチームを作ろう

社会の変化に伴い、正社員に加えて、時短勤務やスポット人材など、異なる働き方の人材を一つのチームとしてまとめ上げる必要が出てきた。この状況を踏まえて、これからの人事は「人材のグラデーションを意識した業務設計と人員配置のスキルが問われる」と中島氏は語る。

「昔の職場は、正社員という一種類の働き方、あるいは正社員と派遣社員という二種類の働き方を管理できれば上手くいきました。でも今の職場は『0.5人月稼働できる人』『リモートで夜以降なら動ける人』『週末だけ働ける人』など、働き方のグラデーションが広がってきています。その複雑なグラデーションに対応するためにも『業務と組織のあり方をどう設計するか』について、もっと検討する時間を作るべきです」

従来はアルバイトでまかなわれていた飲食・小売店などの雇用が徐々にスポットワークに置き換わりつつある。この「勤務時間の短期化」はホワイトカラー領域でもさらに増えていくだろう。そこで重要なのが、内部と外部の垣根を超えたチーム作りだ。

「クライアント企業の中には、採用部門の中に正社員・フリーランス・RPO会社と、様々な所属のメンバーが入り混じっているチームもあります。スカウトが得意な人材もいれば広報に強みを持つ人材もおり、各々が適材適所でスキルを上手く発揮しているそうです。今は正社員雇用にこだわらなければ、そういったチーム作りをしやすい状況が生まれつつあります。

また正社員として雇っても1〜2年で辞めてしまう人もいる一方で、フリーランスで3年間同じ企業を支援し続けている人もいます。伴走してくれる時間の長さと『契約のあり方』は関係がないのです。そのことを踏まえて、外部リソースを使うことを恐れずにチャレンジしてほしいですね」

(鈴木智華)