【#02急成長スタートアップ】最短で成果を出すための「投資の優先順位」

株式会社QuickWork
代表取締役社長
村岡 功規
むらおか・あつのり/学生時代にデータ分析の研究員の傍ら、Webサービスを起業。大手IT人材企業レバレジーズで新規事業立ち上げと営業マネージャーに従事し、QuickWorkを共同創業。

急成長スタートアップから学ぶ実践的組織作り

50名の規模の組織になった後も自由な組織運営を行う株式会社QuickWork。2019年創業後、今も組織を拡大し続けている背景には、「メンバーを信じて任せる」という価値観があるようだ。今回HRog編集部は同社の組織づくりの裏側について、代表取締役の村岡氏に話を聞いた。

村岡氏と現COOの粂氏の2名体制で創業したQuickWork。2人の意思決定における判断基準が近く、オールラウンダープレイヤーとして0から1を創る過程を共に楽しめそうだったことが、2人での事業立ち上げのきっかけだったという。今もなお成長し続ける組織は、どのような過程を経て現在に至るのか。今回は、組織のフェーズに合わせたマネジメントのあり方について同氏のノウハウを聞いた。

スタートアップにおけるサービス成長の鍵は「投資の優先順位」

創業当初は売上も少なく、営業からサービス開発、社内の雑務といったすべての業務を自分たちでおこなっていたと話す村岡氏。少ない人員で多くの業務を遂行するためには「生産性」や「効率化」が鍵となるようだ。

「事業を開始した当初は運転資金にも限りがあるので、コア業務に加えてノンコア業務なども外部に頼らず、自分たちでやっていました。人手がないと時間も足りなくなることに課題を感じ、起業後最初の売上のほとんどは『Mac Book Pro』の購入に投資して少人数での業務効率化を図りました。その結果、ローカルで10個ほどのプログラムを同時に動かせるようになり生産性が飛躍的に向上しました。人員が増やせない当時は、まるで自身の分身を作り出したかのようにも感じましたし、SaaSビジネスのスタートアップが業務効率化の仕組み作りに投資することの意味は大きいと思います」

創業から4カ月は開発を中心に2名体制で現場をまわしていたものの、売上獲得のための広告運用や徐々に増えつつあった問い合わせへの対応など、営業担当者がいないことで体制面での課題が大きくなったという。中途採用をできるほど資金に余裕がない中で、村岡氏はいかに人員増加に取り組んでいったのだろうか。

「インターンでの採用に踏み切りました。『ビジネス経験のないインターン生に、事業立ち上げのフェーズで大事な営業を任せることに不安はないか』と聞かれたこともありましたが、私は逆にここがチャンスだと考えました。ビジネス経験がなくても顧客とやり取りできるフローを構築できれば、今回だけでなくこの先どんな人材が入社してもその仕組みを汎用していくことができます。営業支援ツール『Salesforce』を導入して構築したセールスフローは、その後さらに問い合わせが拡大する時期にも大きく役立ち、組織の成長に貢献しました」

資金が潤沢でないから経験値のある人材が採用できないのではなく、資金が潤沢ではないからこそ一から構築できるフローがあるといった逆転の発想は、事業拡大にも大きな好影響を及ぼしたようだ。

複数の事業展開を機にプレイヤーからマネージャーへ

2020年4月7日、新型コロナウイルスの流行に伴い緊急事態宣言が発令され、多くの企業がリモートワークを導入するなど働き方やコミュニケーションのあり方も大きく変化した。QuickWorkも例外ではなく、その影響を受けたという。

「2月から月に数百万円を広告投資に費やしましたが、顧客の経営状態の悪化などにより進行中の商談案件で失注が続き、受注率が半減しました。直接的に外部要因の影響がないと思われている業界でさえビジネスの継続に関わる大きな影響を受けたことで、経営者としても利益が薄いビジネスモデルは選択してはいけないと実感しました。同時に、利益率が高いマーケットで勝ち抜くためにはさらに本質的なサービスの価値を追求することが不可欠だと考えました。

そこで実践したのが、サービスやPR戦略における訴求ポイントの転換です。『非対面・非接触でも可能とするリモート営業のツール』という切り口で営業を始めたところ、問い合わせが急増し、マイナスの状況を追い風にできました」

資金面にも余裕が生まれたため人員増加に踏み切り、これまで自らが携わっていた開発やセールス、マーケティング業務のすべてを他のメンバーに任せたという。そして、村岡氏は自分のバリューが最も発揮できる新規事業の立ち上げに着手した。

「コロナ禍では、メンバーのモチベーションを把握しにくいといった課題を抱える企業が多くあります。そのような中、ニーズが急増している『エンゲージメントサーベイ(HRtech)』のマーケットに着目し、海外No.1企業をベンチマークにして開発に取り組みました」

新規事業の展開に伴い組織も拡大した一方で、また新たな課題が生まれマネジメントの必要性と実感したと村岡氏は続ける。

「複数の事業展開を始めた一方で、組織としてのマネジメントが必須となりました。たとえば、今まで1名で行っていたマーケティング運用では事業展開により施策が多くなりすぎて、改善に集中できない状況になるなど組織として見るとうまく回っていない状態が課題として浮き彫りになりました。そこで、マーケティング業務をSNS、リスティング、MA、オウンドメディアの4つのポジションに分け、それぞれ専任者を採用しました。

この新規採用により、マーケティングチームは1名から4名へ、開発チームは2名から5名体制へ増員し、2部署合わせると1カ月で3倍(3名→9名)の規模になりました。ちょうど創業から1年が経過した頃には、全体で30名の組織に拡大しました」

起業家から経営者への進化

2020年9月時点でメンバーが35名を超えると、プレイヤーとしてタスクをこなす機会も減ったという。その仕事内容はどのように変化したのだろうか。村岡氏は起業家と経営者の役割や仕事内容を以下のように挙げた。

起業家 プロダクト作り、資金調達、顧客開発、仲間集めなど
経営者 MVVの浸透、市場・競合リサーチ、業務の形式知化・浸透、PR、IR、従業員採用、EXIT戦略の構築と実行、バリューチェーン構築、ポートフォリオ戦略築など

「組織をまとめあげ、世界と渡り合うサービスをつくるためには、私自身が起業家ではなく、経営者として進化しないといけないと考えるようになりました。実際に仕事内容も変化し、サービスの立ち上げと同時に市場認知を広めるためメディアからのインタビューを受けるなど、社外広報の強化にも取り組みました」

「しかし、起業家ではなく経営者の立場で露出すると取り巻く環境が一変し、私自身も経験したことのない仕事や経営判断における選択肢が増加しました。その結果、業務の優先順位で困惑する機会も増えましたが、COOの粂と日々議論を繰り返し、現在の自分たちの優先順位を丁寧に整理しながら改善を重ねました」

そして、その頃に村岡氏は大きな投資を決断する。

「単月営業利益が50%を超え、投資体力に余裕が出てきたタイミングで『SaaS事業者たるものプロダクトに投資すべし』と判断し、開発チームを5倍(5名→25名)に拡大することを決定しました。採用数から逆算して必要なエントリー数・面談数をKPIに掲げ、私1人で採用活動をスタートしました。

目標達成可能なペースで順調に採用していけましたが、組織の急激な肥大化による開発効率の低下を懸念し、15名前後の人員を採用したところで一時的に採用をストップしました。この期間は入社後のオンボーディングや開発体制の構築、メンバーとのコミュニケーションに注力しました」

組織が拡大したものの、まだ採用担当者が不在だった当時は100名以上のエントリーや数十件の面接を一人で対応していたと話す村岡氏。採用の工数を減らすためにどのような施策をおこなったのだろうか。

「この体制に限界を感じ、会社の資料作成に取り組みました。オンライン上で誰でもアクセスできるようにしたことで、会社の認知度を向上させるだけでなく『ミスマッチ削減による採用効率の向上』『面談時に必要だった個別説明の工数および時間の削減』という効果もあり、5カ月間で1.6万pvを集められました。これは1カ月あたり3,000名以上の求職者に閲覧される結果で、創業1年半で50名もの組織に拡大することに寄与しています」

会社資料の一部

資金やリソースがない中でも事業拡大のフェーズや状況に順応し、工夫しながらいかにポジティブに会社の資産をストックするか。そのスタンスがスタートアップ経営では重要となるようだ。次回はQuickWorkの今後について、どのような事業展開を考えているかに迫る。