リクルート「Airシフト」で単発バイト領域へ参戦。すべての働きたい人に活躍の場を

(右)株式会社リクルート
プロダクト統括本部 「Airシフト」および「シフトボード」プロダクト責任者
沓水 佑樹 氏
くつみず・ゆうき/大学卒業後、広告代理店に入社、その後ベンチャー企業などを経て2011年リクルートに入社し求人領域での新規事業開発を担当。2018年にAirシフトを立ち上げサービス責任者となり現在に至る。成蹊大学との「スタッフスケジューリング」に関する共同研究により、オペレーションズリサーチ学会におけるシフト関連の論文にも複数参加している。

(左)株式会社リクルート
新規事業開発室 「エリクラ」プロジェクトオーナー
今里 亮介 氏
いまざと・りょうすけ/テレビ局での勤務を経て、2014年に旧リクルート住まいカンパニーに入社。賃貸領域の営業職や企画職を経て、2018年リクルートの新規事業提案制度Ringに『エリクラ』を応募。グランプリを獲得し、事業化へ。現職に至る。

近年、単発バイト・ギグワークが脚光を浴びている。もともと雇用形態の1つとして存在していたが、最近では単発バイトに特化したサイトやアプリが次々と登場している。時間や場所に縛られず、好きな時に好きなだけ働ける単発バイトが、ライフワークバランスを大切にしたい現代人の働き方にフィットしていると言えるだろう。フードデリバリーサービスの「Uber Eats」が大流行したことで、ギグワークという言葉も定着した。

企業側でも、単発バイトの募集を拡大する動きが見られる。応募条件に「短時間」を含む求人の数は年々増加傾向にあり、2020年2月には約1.9万件の求人が公開されていた。コロナ禍の影響で一時的に件数は減少したものの徐々に回復してきており、今後も単発バイト市場は拡大していくだろう。

HRogチャートのデータを元に作成
集計条件

対象媒体:HRogチャートよりイーアイデム、タウンワーク、バイトル、フロムエー、マイナビバイトに掲載された求人情報をデータ化して集計
対象期間:2020年1月~2022年1月
集計条件:応募条件に「短時間」という文言を含む

この流れを受け、株式会社リクルートは2022年3月8日より、同社が提供するシフト管理サービス「Airシフト」に単発バイトを募集・採用できる「ヘルプ機能」を追加した。

今回は株式会社リクルートの「Airシフト」および「シフトボード」プロダクト責任者である沓水氏と、 「エリクラ」プロジェクトオーナーである今里氏に、開発背景と実現したい未来について話を聞いた。

コロナ禍で減ったスタッフを戻せていない飲食店が多い

 「Airシフト」は、希望シフトを集める・組む・調整する・スタッフとやりとりするなどの業務を一つのシステム上で完結できるシフト管理サービスだ。店舗はシフトの埋まり状況をシフト表上で可視化し、シフトの空いている・空きやすい日時を特定できる。さらに今回の機能追加により、その空きシフトを「埋める」ところまでを担えるようになった。

単発バイトの募集情報は、「Airシフト」と連携して使えるスタッフ向けシフト管理・給与計算アプリ「シフトボード」に掲載される。働き手はピンポイントな日時で仕事を探すことができ、「シフトボード」上で応募から採用後の店との連絡までできるようになる。2つのサービスの接続により、より高い採用効果が期待できる。

沓水氏によると、こうしたサービス展開の背景には、日本での少子高齢化やそれに伴う人口減少で、人手不足が深刻化している現状がある。

「実は『Airシフト』のデータからは、新型コロナウイルス禍で一時的に人員を減らした店舗が、その後採用したくてもできていない現状が浮かび上がっています。2020年2月を100%とした時のスタッフ増減率とシフト増減率を見ると、スタッフ数は、第1回目の緊急事態宣言が発出された2020年4月以降、減少した状態が続いています。一方でシフト数は、第1回目の緊急事態宣言が発出されて大幅に減った後、解除と再発出のタイミングで増減を繰り返している。ここから、お店は限られた数の既存スタッフに頼ったシフト調整で、繫閑に対応していると読み取れます」

沓水氏は、「アルバイト・パートで働く方の多くは、『働きたい時に働きたいだけ働きたい』と考えています。おそらく、新型コロナウイルスの影響がなくなったとしても、固定のバイト・パートだけでなく、単発の仕事と組み合わせた働き方が増えていくでしょう」と予想する。

近所の仕事をスキマ時間に 利用者数が増加する「エリクラ」

こうした既存の概念にとらわれない、多様な働き方への関心の高まりは、リクルートの他サービスの状況からも浮かび上がる。同社が提供する、スキマ時間を活用して近所で手軽な仕事を探せるアプリ「エリクラ」の利用者数も増加している。「エリクラ」責任者の今里氏によると、サービス開始直後の2019年11月時点と比較すると、現在は働き手の数が2.3倍に、仕事数は5.1倍に増加したという。

「『エリクラ』は、『マンションのエントランス掃除を10分で500円』のようなマニュアルを読めば誰でもできる仕事と、働き手をマッチングしている点が特徴です。掲載された仕事の現場の近隣に住む人が応募し、終了後に写真を撮ってアプリ上で完了報告すると対価が支払われます。育児などを理由に会社や店舗が指定する時間の枠で働けない人やシニアが、散歩のついでや空いた時間に小遣いを稼ぐ感覚で働けるサービスです」

「エリクラ」では、主に不動産管理を手掛ける企業が仕事を発注している。従来は、社員が複数の物件を定期的に巡回し、一か所10分の掃除のために多くの時間と労力と交通費をかけていた。これを近隣に住むユーザーにアウトソースすることで、社員は別の仕事に時間と労力を費やせるのだ。

今里氏は、「時間や場所、生活環境などの問題で仕事探しを諦めてしまった働き手でも、仕事を切り出して、時間内にこなせる分量と難易度で依頼できれば、働く機会は生まれます」と話す。

日本の将来的な労働力不足が叫ばれて久しい。しかし、空きシフトへの働き手の募集や切り出せる業務の見直しで、働きたいけれど働けていない人の活躍の場が提供される余地はある。それが同時に、企業やお店にとっては労働生産性の向上につながる好循環が期待できるだろう。

満を持して単発バイトに参入したリクルートが、今後どんな世界を描いていくのか注目だ。