【コロナ禍から3年#02】「人と向き合う会社だけが生き残る」採用支援のプロに聞くコロナ禍の採用とこれから

株式会社プロフェッショナルバンク
取締役 常務執行役員
高本 尊通 氏
たかもと・たかみち/1995年、株式会社パソナ入社。特別法人グループ営業責任者、営業/事業企画、アライアンス、M&A、全社業務改革等に携わる。2004年、株式会社プロフェッショナルバンク設立に参画。大手企業からベンチャー企業まで、経営層・経営幹部候補等、主にハイキャリア層の支援に従事。約10,000 名もの個人のキャリアと向き合う。これまでの人材エージェント業務に加え、現在は人事/経営企画/経理/財務のバックヤード部門を管掌。

コロナ禍から3年、あれから人材業界は

新型コロナウイルスが流行し、2020年4月7日に1回目の緊急事態宣言が発令されてから3年が経過しようとしている。人材業界は大きな打撃を受けながらも、乗り越えて市場を成長させてきた。この3年間で人材業界はどのように変化してきたのか?本特集ではコロナ禍における変革を振り返る。

特集第1回目では、求人件数の推移からコロナ禍における採用市場の動向を振り返った。では実際に、現場の採用担当者と求職者はどう変化したのだろうか?第2回目となる今回は、25年以上人材ビジネスに携わり知見を深めてきた株式会社プロフェッショナルバンクの高本氏にコロナ禍における人材業界の変化と今後の動向について話を伺った。

ハイスキル人材を中心に採用難度は急上昇

2020年の初めから急速に罹患者が増えた新型コロナウイルスにより、経済の動きは一時停滞した。先行きが見えない環境下、多くの企業がリモートワーク体制への移行を進めることに労力を割いたため、採用そのものをストップする企業が多かった。

市場が回復してきた時期に関して「コロナが発生してから約1年半後、2021年の下期あたりから、徐々に求人ニーズが回復してきた。企業の採用意欲が急速に活発になり、採用がなかなか充足せず困っている企業が増えたのもこの頃だ」と高本氏は話す。コロナ禍で採用ニーズを急速に伸ばした属性や職種はどのようなものだろうか。

「確実にニーズが高まったのは、いわゆるDX人材と呼ばれる人たちです。コロナによって、かつての紙やハンコといったアナログ情報による管理が難しくなりました。そんな中、ほぼすべての業界・規模の企業でDX人材のニーズが高まっています。

また『リモート下でも成果を出せるマネジメント層』のニーズも高まりました。働き方がリモートワークに移行したことで社内のつながりが希薄になり、従業員エンゲージメントが低下する状況も散見されました。オフラインとオンラインで求められるコミュニケーションが変わっていく中で、『オンラインで目標達成とチームマネジメントができる』プレイングマネージャーを求める企業様が一定数増えています。

付随して、人事担当者の人材ニーズが高まったのも見逃せない点です。働き方がオンラインに移行すると、今まで機能していた人事制度がうまくいかなくなったり、新たな従業員の不満や不安が生まれたりといった課題が生まれます。これまでの組織のあり方を一度リセットし、改めて『今、組織をどうデザインしていくべきか』という最上流から組織開発や制度を設計できる、そんなハイスキル人事のニーズが高まりました」

より難度の高い業務を達成できるハイスキル人材を中心に採用ニーズが高まる一方、そのような人材は採用するのも難易度が高い。近年はハイスキル人材を直雇用で採用するのではなく、フリーランス人材や副業人材の活用によって充足させようとする動きも増えてきた。

「不確実性の高い時代になり、多くの企業が新たな取り組みにチャレンジする必要に迫られているものの、全く新しいプロジェクトを担当する人材を直接採用するには、ミスマッチが起こる可能性が高く企業にとってはリスクも大きいです。そのため、多様化した組織の課題を解決できるスキルを持つフリーランス人材や副業人材を、プロジェクト単位で活用する動きは今後増えていくでしょう」

一方で、自社社員に副業を認める企業はまだそこまで多くないという。しかしエンジニアを中心に「副業できない会社の選考は受けない」という意思決定をする人材も増えており、今後副業の可否が採用力に直結する時代が来るだろうというのが高本氏の見立てだ。

企業は「個」と向き合う姿勢が問われる

新型コロナウイルスは、求職者の意識にも大きな変化を与えた。特に「過去の『やりがい・働きがい』至上主義から、コロナ禍を経て個人のプライベートな時間に重きを置く人たちが増えた」と高本氏は語る。

「また、単に働き方という観点だけではなく、キャリア志向にも多様性が生まれています。例えばエンジニア一つとっても、マネジメントをやってみたい人もいれば、ずっとプレイヤーとして働きたい人もいますよね。従業員一人ひとりの要望に対して向き合える組織に属していればいいのですが、会社がそれらに対応する仕組みを整えていない場合、より自分に合った働き方ができる企業を目指して転職するという動きも増えています」

さらに、今後企業に求められるのは、従業員一人ひとりの「個」を軸にした組織のあり方や仕組みのデザインだという。

「25年以上企業の採用を見てきた中で、採用の上手い会社とはいつの時代も変わらず『人と向き合っている会社』です。もちろん企業としてのアイデンティティや理念など組織としてのベースは守りつつも、個のキャリア設計や優先したいことに耳を傾け、それらに合わせて柔軟に雇用形態や職種・職位を設計できる仕組みを構築した組織は今後も生き残るでしょう」

今まで採用メッセージとして「仕事の中でどれだけ成長できるか」「キャリアを積めるか」を訴求してきた企業も多いだろう。そうした働きがいも大切である一方、今後はそれ以上に「どう働けるか」が求職者にとって企業選びの重要な軸になっていく。企業はその観点から企業の強みを整理し、アピールする必要がありそうだ。

人材ビジネスは個と企業にとってのインフラ

最後に、今後の人材業界の動向予測を聞いた。高本氏は「今後もこの人材獲得競争はさらに激化するだろう」という。

「アメリカではGoogleやAmazonといった大企業を中心に人員削減が行われていますが、一方で日本国内は依然として採用ニーズが高い状況です。DXへの対応、グローバル化、事業承継の問題など、企業が抱える課題が年々増加する中、これらの課題を解決できる人材をいかに獲得するかは企業経営における重要な関心事になっていくのは確実です。

特に先ほどお話ししたDX人材やハイスキル人事は、自分の業界だけではなく、あらゆる産業の企業が採用競合となります。数多くある企業の中から自社を認知してもらい、最終的に選ばれるための試行錯誤の動きがすでに始まっています。例えば大企業では、販促目的ではなく採用目的でテレビCMや電車広告を出稿しています。中小企業にそうした大規模な取り組みは難しいと思いますが、今後は求職者にいかにアプローチするか、打ち手に工夫と知恵が求められるようになるでしょう」

また今後採用ニーズがさらに高まる職種や業界として、「DXに対応するIT人材」「少子高齢化に伴って市場が大きくなる医療系」があがった。採用難度が高まるとともに採用手法も多様化しているが、高本氏は自身の経験から「打ち手を広げるよりも、一つの手法をやり切ることが大切」だと語る。

「長年企業の採用を支援して感じたのは、一つの採用手法を試してみてすぐに結果が出ないと、即その手法を諦めてしまう企業が多いこと。現在はSNS・オウンドメディア・ダイレクトリクルーティング・リファラル採用など、求職者と接点を作れる場所はどんどん増えていますし、求人広告を扱う企業や人材紹介会社もたくさんあります。一方で人事のリソースが分散してしまい、一つひとつの接点ときちんと向き合いきれている企業は多くありません。

例えば、プロフェッショナルバンクのヘッドハンティングでは普通の人材紹介の6〜7倍という高い採用成功率を誇っているのですが、採用ツールやタッチポイントを無闇に増やさず、一つひとつやり切ることを大切にしています。採用トレンドを次々追いかけるのではなく、しっかり一つの手法に向き合っていただきたいと思っています」

今後もさらに人材の採用難易度が高まる中、人事担当者の負担も大きくなっていく。人材業界は人事担当者の持つ多様な課題を解決し、支えていく重要な役目を持っていると言える。

「人口減少の加速、未来への不確実性の高まりなど、混沌とした時代へ突入する中、人材ビジネスはまさにこれからの業界だと思います。そして人材ビジネスとは、『仕事選び』と『人材獲得』という、企業と個にとってまさに命運を左右する最重要要素を扱っているビジネス。いわば電気や水道と同じように、社会にとってのインフラなのです。だからこそ人材ビジネスに携わる人は、自分の仕事を右から左、左から右へ動かすような作業として捉えてほしくないと思っています。

例えば企業の採用要件一つとっても、企業からヒアリングしたものをそのまま求人の形にするか、『なぜこの要件なんですか?』と質問して要件を再検討するかで、その後の採用率は大きく変わります。物事の課題や本質を捉え方次第で、成果が変わるのもこの仕事の魅力です。採用競争が激しい時代だからこそ、自らのクリエイティビティを発揮して社会に貢献していってください」

(鈴木智華)