【コロナ禍から3年#03】求職者は”働きやすさ”を重視。コロナ禍で変化した仕事選びの軸とは?

株式会社カカクコム
求人ボックス事業本部メディア企画部 部長
牛渡 武志 氏
うしわた・たけし/大学卒業後、2008年にUGC事業を展開する企業でキャリアをスタート。2012年株式会社カカクコム入社。「価格.com」で中古車やサービス系メディアの改善・新規リリースを担当後、2015年の「求人ボックス」立ち上げに参画。以後、サービスの機能開発やグロース、マーケティングとあわせて組織成長全般に携わる。

コロナ禍から3年、あれから人材業界は

新型コロナウイルスが流行し、2020年4月7日に1回目の緊急事態宣言が発令されてから3年が経過した。コロナ禍で人材業界は大きな打撃を受けながらも、乗り越えて市場を成長させてきた。この3年間で人材業界はどのように変化してきたのか?本特集ではコロナ禍における変革を振り返る。

特集第2回目では、コロナ禍で変化した企業のニーズと求職者の意識についてを伺った。では、実際に求職者が仕事を探す際の検索キーワードはどのように変化しているのだろうか?また求職者が求める働き方に合わせて、求人の内容は変化したのだろうか?

今回は株式会社カカクコムが運営する求人情報の一括検索サイト「求人ボックス」より求職者の検索キーワード動向を、また株式会社フロッグが提供する人材業界向け求人データ分析サービス「HRogチャート」から求人内容について調査・分析する。さらに同社の牛渡氏から、近年の求職者動向について解説いただく。

求職者の検索キーワードはどう変化した?

コロナ禍で変化した求職者の価値観は、求人検索時のキーワードにも反映される。今回は求人情報の一括検索サイト「求人ボックス」の運営を行う株式会社カカクコムが保有する検索キーワードのデータを使用して、コロナ禍前の2020年2月から規制が緩和され始めた2023年2月までを調査した。

採用ニーズの高い「ITエンジニア」「人事」の検索数が増加

特集第2弾では、コロナ禍で業務のデジタル化やDXの推進を加速させる企業が増え、ITエンジニアやDX人材の採用ニーズが増加したと分かった。IT・DX人材の需要は高まったものの、その不足は顕著であり、経済産業省が発表した「IT人材需給に関する調査」によると2030年までに最大79万人が不足となる可能性がある。

またIT人材と同様に、人事担当者の採用ニーズも高まったとの解説があった。働き方が多様化する中で、従来の人事制度では対応できなくなったり新たな従業員の不安・不満が生まれたり、採用戦略に変化が求められたりといった課題が発生したためだ。これからの時代に合わせて、組織開発や制度設計をできる人材が求められている。

企業においてIT・DX人材や人事担当者の採用ニーズが高まる中、実際に同職種を検索する求職者は増えているのだろうか。求職者の検索キーワードについて、コロナ禍前の2020年2月から2023年2月までを調査した。

ITエンジニア

まずは「ITエンジニア」と検索された回数の推移を見ていく。緊急事態宣言の影響から求人件数が減少した2020年5月より「ITエンジニア」の検索数が増加し始め、2020年2月から2023年同月までの3年間でその検索数は790%増加している。

ITエンジニア採用は冒頭に述べた通り超売り手市場となっており、採用競合との差別化を図るために賃金を高く提示する企業は多い。そのため「現状よりも良い条件の求人があれば転職を検討する」と考えるITエンジニア人材は多く、より賃金の高い求人を求めて検索する人が増えたと推測できる。

また人材不足・超売り手市場であることから、未経験者を採用して自社で育成する企業もある。実際に「ITエンジニア 未経験」と検索する求職者は3年間で428%増加しており、未経験からエンジニアを目指す人も増えていると分かる。

さらに、「DX推進」と検索する求職者も増加している。2020年12月から検索数が増加し始め、同月から2023年2月までに+1,062%と大幅に増加した。企業だけでなく、求職者からもDX推進に対する関心が強い様子が伺える。

人事

続いてエンジニア職と同じく特集第2弾で言及のあった、「人事」の検索数を調査した。2020年2月と2023年同月で比較したところ、その検索数は76%増加していた。「ITエンジニア」ほど増加が顕著ではないが、3年の間を+50〜100%で推移しており、「人事」に関連した仕事を探す求職者もコロナ禍で増えていることが伺える。

仕事選びの軸は「働きやすさ」に

職種以外の変動に目を向けると、コロナ禍では自身のキャリアや働き方について見つめ直す時間が生まれたことで、求職者の仕事選びにおける軸も変化した。最近は、よりプライベートな時間を重視して「働きやすさ」を求める人が増えている。「仕事の中でどれだけ成長できるか」「キャリアを積めるか」と並んで「どう働けるか」も重要視されるようになった。

今回は、ワークライフバランスを求める動きから、「土日祝休み」と「リモートワーク」のキーワードについて調査した。

土日祝休み

求職者が「土日祝休み」と検索した回数をコロナ禍前の2020年2月と比較調査したところ、コロナ禍の影響が大きかった2020年6月〜10月において検索数が+30〜60%と増加した。現在は同時期ほどの検索数はないが、プライベートの予定を立てやすいことから依然としてニーズは高い。「土日祝休み」に限らずとも、休暇の取りやすさは求職者への大きなアピールポイントとなるだろう。

リモートワーク

コロナ禍の対策として広まったリモートワークだが、通勤時間が減ったり場所にとらわれなくなったりと、そのメリットからコロナウイルスの影響が落ち着いた現在もリモートワークの継続を求める人は多い。

実際に「リモートワーク」の検索数を調査したところ、2020年2月から2023年同月までの3年間で42%増加した。また2020年2月との比較において、初めての緊急事態宣言が解除された2020年5月は+156%、2021年1月には+274%の検索数となっている。

ミドルシニア層の仕事探しが活性化

ここまではコロナ禍による影響の大きいキーワードを調査してきたが、コロナ禍以前からの採用市場における変化としてミドルシニア・シニア層の雇用活性化がある。2021年4月1日に施行された改正高齢者雇用安定法では「70歳までの定年引上げ」「70歳までの継続雇用制度」といった努力義務が設けられるなど、日本全体でシニア世代の働く環境を整える動きがみられた。

制度が変わる中、実際にミドルシニア層の求人検索はコロナ禍でどのように変化しているのだろうか。2020年2月から2023年同月における各キーワードの検索数を調査した。

40代・50代・60代

国や企業の動きにあわせて、「40代」「50代」「60代」のキーワードにおいて検索数が増加した。特に「60代」では、2020年2月からの3年間で717%増加している。

ミドルシニア層も自分に合った「働きやすい」環境を求め、自身の年代に向けられた求人を検索する人が多いと分かる。「人生100年時代」と言われる中で70代や80代になっても働くことを見据えて、50代や60代でその後のキャリア設計を見直す人が増えているのではないだろうか。

求職者のニーズに応える求人は増えた?

検索キーワードの調査では、求職者のキャリア意識や働き方の価値観が変化し、「働きやすさ」を求める求職者が増えたと分かった。企業は求職者のニーズに合わせて、求人の打ち出し方や自社のアピール内容を変えていくことが重要だ。実際に、コロナ禍で求人検索数の増えた「土日祝休み」「リモートワーク」「40代・50代・60代」のワードを含む求人数は増加しているのだろうか。人材業界向け求人データ分析サービス「HRogチャート」のデータを使用し、2020年1月と2023年4月の求人数を比較する。

土日祝休み

求人原稿において仕事内容の項目に「土日祝休み」を含む求人数を調査したところ、2020年1月から2023年4月までの3年間で14,002件(+77.0%)増加した。業種によって土日・祝日を休みとしづらい場合もあるが、以前よりも「土日祝休み」をアピールポイントとする企業が増えている。

リモートワーク

仕事内容に「在宅」のワードを含む求人数を調査したところ、2020年1月から直近にかけて87,847件(+649.9%)増加した。その他のキーワードと比較しても、突出して増加している。

40代・50代・60代

応募条件に「40代」「50代」「60代」が含まれる求人数をそれぞれ調査した。結果は、「40代」で63,643件(+83.8%)増加、「50代」で161,789件(+78.5%)増加、そして「60代」が22,647件(+42.9%増加)となった。ミドルシニア世代も活躍しているとアピールする企業が増えていると分かった。

上記の調査では、特に「リモートワーク(在宅)」を含む求人数がコロナ禍前と比較して7倍以上に増加したことが分かった。オフィスを縮小して固定費を削減できたり地域にとらわれない採用ができたりと、企業側にもリモートワークを推進するメリットは多数ある。求職者・従業員と企業双方のニーズが高いことから、コロナ禍の落ち着いた現在でもリモートワークできる環境を維持する企業が多いようだ。

「働きやすさ」をアピールできる企業が有利に

最後に、株式会社カカクコムで「求人ボックス」の立ち上げに参画し組織成長に携わっている牛渡氏に、今回の調査について総評を伺った。

「コロナ禍は日本における労働のあり方に大きな変化をもたらしました。コア部分は対面でないと成り立たない仕事であっても業務のDXが行われ、仕事の一部がオンラインに移行したという例は珍しくないです。一方、直近では対面の良さを見直した職場回帰の動きもあり、それぞれの企業・ひとつひとつの現場でパフォーマンス最適化の模索が続くでしょう」

また、「人手不足による影響は今後も続く」と牛渡氏は続ける。

「労働市場全体のより大きな潮流に目を向けると、長く続く少子化による労働力人口の減少が大きな課題としてあり、また2024年以降の働き方改革の影響も物流業・建設業を中心に予測されています。『求人ボックス』のデータや労働力調査で明らかになったように中高年の転職や求職行動も過去よりは増加傾向にありますが、現状の人員配置と業務そのままでは成り立たなくなる業態もあるんですね。今後、企業には採用の間口を広げるとともに生産性向上・業務の効率化が求められていきます。

また企業が必要とする業務効率化は、従業員・労働者にとっては働きやすさにつながります。今回は言及しなかったトピックとしては副業解禁の流れもあり、事業・業務自体の魅力に加えて、さまざまな観点で『働きやすい』とアピールできる企業が人材採用において有利になるという動きは今後も続くでしょう」