
株式会社Matchbox Technologies
執行役員CSO
千葉 寛之 氏
ちば・ひろゆき/1976年、埼玉県出身。上智大学 理工学部を卒業し、(株)インテリジェンス(現パーソル)にて転職サイト事業立上を経験。その後、(株)ローソンにてチェーン全体のアルバイト人材不足対策を担当し、Lawsonstaff設立に携わる。現在は、営業戦略、matchboxのセールス領域を担当。
地方の人材不足を解決する方法として、旅をしながら仕事をする「ワーキングホリデー」の活用に注目が集まっている。田舎での暮らしに興味がある人や経験・スキルを活かせる場所を探している人は少なくないが、いきなりの転職・移住は勇気がいるものだ。ワーキングホリデーなら観光しながら仕事や土地を知れるだけでなく、旅人ならではの形で貢献できるという。
今回はそんな地方活性×国内ワーホリの取り組みについて特集する。
株式会社Matchbox Technologiesでは、会社独自の単発バイトマッチングアプリを作成できるサービス、「マッチボックス」を提供している。マッチボックスは地方の人手不足解消にも一役買っており、HRogでも2023年に取材をおこなった。あれからマッチボックスによる支援はどのように広がり、そこからどんなことが分かってきたのか。執行役員CSOの千葉氏に話を伺った。
地方自治体の公式だからこそ、安全・安心でなければならない

マッチボックスは、2022年から地方自治体へのサービス提供を開始し、自治体内の短期・単発バイトを探せるギグワークプラットフォームを構築してきた。新潟県湯沢町での導入を皮切りに、2025年3月現在では17の自治体・13の専用サイトの導入実績がある。
自治体での活用が進んでいるのには、マッチボックスが提唱する「セルフソーシング」の概念と地方自治体との親和性が高いことが関係しているという。
株式会社Matchbox Technologiesが提唱している概念で、人材の自社運用システムを利用して、採用・雇用に関する人事業務を効率化すること。自社で働いたことのある派遣・単発バイトを、経験者としてデータベース上で登録・管理し、仲介なく直接募集をかけることができるため、外注コストの削減につながる。
「マッチボックスの大きな特徴として、自治体ごとのコンセプトに合わせた、独自の就業プラットフォームを作れることが挙げられます。
どの自治体も人手が足りていないのは同じですが、それをどのように解決していくかは自治体ごとで全く異なってくるんです。就業支援のインターンシップサイトのような形で活用している自治体もあれば、地域の年齢層が高いのでシニア層向けのサイトにしたいという自治体や、働く女性をもっと増やしたいというコンセプトで運営している自治体もあります。
そういったコンセプトをサイトに落とし込めるのがマッチボックスの魅力です。自治体ごとに実現したいことや考え方が少しずつ違っているので、それに答えることがとても大事だと思っています」
マッチボックスの就業者データを見てみても、エリアごとに特色が見えてくる。例えば大阪府泉佐野市では20代の利用者が最多となっているが、静岡県伊東市では50代の利用者が突出して多い。また一番最初にマッチボックスを導入した新潟県湯沢町では、30代の女性の就労機会を増やすことを目標に掲げており、実際に他のエリアと比べても30代女性の割合が多くなっている様子が分かる。

「マッチボックスには各自治体専属の担当者がいて、クリエイティブの作成や広告運用を一緒に行ったり、営業がコンセプトに合う求人を探しに行ったりと、伴走型で運営のサポートを行っています。各自治体の課題や理想に寄り添えるのが、全国一律に提供されているサービスとは異なる魅力ですね」
加えて、マッチボックスの持つ「信頼性」も地方自治体とサービス利用者に大きな安心感を与えている。
「自治体が公式で運営しているサイトなので、企業や個人の方からも大きな信頼を得られています。そのため、ご年配の方にも安心してご登録・ご利用いただけているのかなと。
昨今の社会情勢もあり、求職者の方々の中で『本当に安全な就業先なのか確認したい』という要望は強まっていると思います。我々としても、企業も個人も安心して使えるサービスであることが一番大事だと考えているので、コンプライアンスには開発の当初から重きを置いていますね。
当社は求人を出す企業に与信チェックと面談を必ず実施していますし、『にいがたCITYマッチボックス』では、県警と連携して反社会的勢力が関わっていない企業であることを完璧にチェックしています。
労務面でも、働き手が不利にならないような仕組みを設けています。例えば、税の計算が大変になるからと働き手の労働時間を制限したり、雇用を企業都合でキャンセルしたときになにも補償がされなかったりと、働き手に不利な慣習が一部ではまだ残っているのが実態です。そこでマッチボックスでは、税計算や書類手続きなどの繁雑な対応を自動化し、問題をクリアしています。
自治体公式のプラットフォームとして、コンプライアンスは外せないポイントですよね。法律を守り、働き手の保護を大切にしているからこそ、自治体さんに受け入れていただけているのかなと思っています」
自治体の要望を受け、リゾートバイトにも対応
そんなマッチボックスは、2024年12月にリゾートバイト求人への対応開始を発表。まずは長野県下高井郡山ノ内町の「山ノ内マッチボックス」にて、スキー場などの住み込み求人が掲載された。これまでスポットワークのプラットフォームとして数時間~1日単位の求人を扱ってきたところから、数か月の就業となるリゾートバイトへの対応を決めた背景について、千葉氏はこう語る。
「一番大きい理由は、自治体からのニーズが多かったからです。観光立地の自治体も多く、冬場のスキー場などではリゾートバイトの人手がかなり大きい戦力になっています。このニーズ自体は以前からあったものではありますが、マッチボックスを利用していく中で実際に採用効果が出てきて、じゃあリゾートバイトもできたら嬉しいな、といった流れで今回の話に繋がりました」
リゾートバイトは2か月を超える案件もあり、働き手の収入も増えるため、前述した複雑な税の計算などが必須になってくる。それに対応する地盤が整っているマッチボックスだからこそ、自治体から要望が出てからわずか半年弱でリリースができたのだという。
「繁忙期を乗り切るにあたって、毎日違う人が働きに来てその都度教えて、という形ではスキルが積み重なっていかず、どうしても生産性が下がってしまいます。旅館やホテルの方としてはやはり、一人の人に数か月働いてもらってスキルを身につけてほしいわけです。
働き手にも、趣味と実益を兼ねて働きたい方や、短期間でまとまった金額を稼ぎたい方、2拠点生活をしている方などがいらっしゃいます。多様な働き方の選択肢を増やすというのは、私たちのやるべきこと・やりたいことでもありますし、企業と働き手、双方のニーズを叶えられることが我々がリゾートバイトを提供するメリットだと考えています」
冬休み中の学生が、他県から泊まり込みで働きつつスキーを楽しむ…というように、地域外からの人材確保にも効果がありそうだ。それを自治体公式で、かつデジタルの力で実現する点がマッチボックスの画期的な点といえる。
「地方の人手不足をリゾートバイトだけで解決できるかというと、そうではないと思います。マッチボックスのセルフソーシング機能を使って地元の人と企業をしっかり繋ぎ、その上で他の地域からも働きに来てもらう。何か月か働いてみる中でその地域を好きになる方もいると思いますし、接点を増やしていくことで人材確保も自然と最適化されていくのではないでしょうか」
近隣地域同士が手を組むことで解消できる人手不足がある

同社が本社を構える新潟県を中心に、活用が広がりつつあるマッチボックス。地域密着型だからこそ、伝播するようにその輪が広がっている。
「例えば新潟県の湯沢町は、隣接する南魚沼市から働きに来る方も多く、地域を越えた人材の行き来が日常的にあります。そうした中で、隣町がマッチボックスを活用していることを知った南魚沼市でも、観光業などの人手不足解消の一助になるのではと導入がされました。地理的に近い自治体同士での連携をスムーズに進められるのも、このサービスの強みです。
規模がそこまで大きくない自治体だと、その町や村だけでは人手不足を解決するのは難しい現実があります。そうなると、いかに自治体同士で連携し、集合体として解決していくかが重要になってくる。そこで当社のシステムを使って、周りのエリアも巻き込んだ支援ができればと思っています。
取り合うと足りないけど、譲り合うとうまくいく。例えば湯沢町と佐渡市が上手く連携できたら面白いなと思っています。湯沢は雪国で冬が忙しく、佐渡は夏が忙しい観光地ですので、繁忙期と閑散期でうまく融通し合えたら理想的ですよね」
そのためにもまずは、全国に約1,700ある市区町村のうちの5%、80自治体での導入を目指す。47都道府県すべてにマッチボックスを利用する自治体が存在し、そこを中心に周辺の自治体も支援していくような形を目指したいと千葉氏は語る。
「また、各自治体の細分化された課題の解決にも取り組みたいですね。人手不足って結構ビッグワードで、自治体によっては特に農業でお困りだったり、看護・介護での人手不足が顕著だったり、観光地なら飲食業が足りなかったりと課題感の比重が違うんです。そこに関して、私たちの持つノウハウや知識で支援をしていきたいです」
そして、自治体ごとに合った課題解決をしていくためにも、ぜひ地方の人材会社と連携したいと話した。
「日本各地には必ず地場の人材会社があって、最大手企業でも日本の求人全てを統一することはできない、というのが人材ビジネスの面白さだと思っています。地域の人材会社さんはその土地の人材を資産として持っていて、我々が足繫く通えないようなエリアにもリーチできるという強みがあります。一方で、デジタル化などに課題を抱えている企業さんもいらっしゃるので、当社がツールを提供して一緒にデジタル化を進める、という形ならすごくシナジーがあるのではないかなと。
逆に『こういう人材が必要なんだけど、うちの地域にはいないんだよね』という課題があれば、マッチボックスから支援することも出来るかもしれません。当社は元来システムの会社なので、地域に根差した人材の会社さんの力を借りれるのであればぜひお借りしたいと思っています。ぜひ一緒に、日本の眠れる労働力を掘り起こしていきましょう」