ここ数年ですっかりなじみの言葉となりつつあるHR Tech。「言葉は知っているけれど、その本質は今いち、よく分かっていない…」「日々登場し続けるさまざまなサービスを把握するのは一苦労…」 この記事ではそんな人に向けて、今話題のHR Techサービスを掘り下げてご紹介します!
Daxtra Technologies Japan合同会社
代表
矢野 広一氏
やの・こういち/日本アイ・ビー・エムを皮切りに25年以上IT業界に携わり、2011年からは人材業界(紹介事業および転職サイト)での勤務経験を持つ。IT業界と人材業界のいずれをも熟知し、2017年よりDaxtra Technologies Japan合同会社の代表に就任する。
HRogの読者の方で応募や登録のあった転職者情報を日々夜遅くまで、自社のデータベースに登録している方もいらっしゃるのではないだろうか。今回のHR Tech特集は「Parsing技術」について。人事およびHR業界の生産性を高めるHRテクノロジーについてDaxtra Technologies Japan・代表の矢野氏に話を聞いた。
HR業界を進化させるParsing技術
――まずはじめにParsing技術とはどういった技術なのでしょうか?
「Parsing技術とは本来はIT用語で『構文解析技術』を意味します。平たく言えば、コンピューターが人間と同様に平文の内容を理解し、その中から必要な情報を自動的に抽出する技術を言います。日本語の履歴書・職務経歴書は海外ではCurriculum Vitae、通称CVと呼ばれており、弊社は履歴情報の構文解析に特化しているので、弊社の技術を「CV Parsing」と呼んでいます」
――Parsing技術はいつから存在するのでしょうか?
「Parsing(構文解析)という考え方自体はかなり以前からあるものですが、これをCV(履歴情報)に適用するというのは、弊社が事業を開始したのが2002年で、弊社はCV Parsing領域においてはパイオニアなので、歴史的に見れば、わずかまだ16年しか経っていない、比較的新しい技術だと言えると思います」
「お恥ずかしながら、私も人材ビジネスをしていながら、日々の中で『Parsing』という言葉を聞いたことすらありませんでした。弊社を2017年10月に立ち上げて、相当数の人材業界の方々にお会いさせていただきましたが、状況として、私と同じく全く認知していない方が多く、日本ではまだまったく定着していない新技術と言えます」
人事部門・人材業界、誰にとっても活用できる
――ではそのParsing技術、事業会社人事部門の場合はどのように活用できるのでしょうか。
「Parsing技術を導入すれば、事業会社も自社で候補者データベースを持つことができ、その中から様々な角度で最適な候補者を検索することが可能になります
「誤解を恐れずに言えば、企業の人事採用部門は自社での候補者集客力を高めることで、採用コストを大きく低減させ、また採用コストの構造を変革しようという動きがもう一部の先進的な企業では始まっています」
「年間に100人の中途採用を行う会社が、その半分を人材紹介会社経由で採用すれば、一人当たりの年収が平均600万円としても、かかる採用コストは9000万円になりますが、優秀なリクルーターが社内で2人いて、それをカバーできれば圧倒的なコスト削減が可能になります」
「これからの大きな市場になると思いますし、実際に海外では事業会社の人事(採用)部門での利用が始まっています」
――人材紹介・人材派遣の場合はどのように活用できるのでしょうか。
「まず、今、日本では労働人口が激減しており、それが今の転職市場加熱の一つの要因にもなっているわけですが、この状況というのは人材市場も同じだということを意識しないといけません」
「つまり、人材紹介市場において、売り上げを拡大させるメカニズムはコンサルタントの人数を増やすか、個々のコンサルタントの生産性(月間成約金額)を上げるしかないわけですが、安定して稼げるコンサルタントを早々に採用はできません。そうなるといかに生産性を上げるか、即ち、いかに生産性の高い業務に集中する環境を会社がコンサルタントに提供できるか、というのは非常に重要な事業戦略となります」
「加えて、現状は圧倒的な売り手市場で、あらゆる企業が優秀な人材を求めています。一見すると人材紹介各社とも軒並み好業績ですが、今後は事業会社がHRテクノロジーを駆使して、もっとシビアに効率とコストを考えた採用方法にシフトしていくようになると、人材紹介企業は、より精度の高い、そして迅速なマッチングと推薦をしていかないと生き残れなくなります」
――求人メディアの場合はどのように活用できるのでしょうか。
「求人メディアも現在は大変な追い風です。これは売り手市場であることに加え、日本でもようやく海外並みに、自分のキャリアアップ、あるいはサラリーアップのためには転職も一つの有効な手段である、という意識が求職者側に定着したからです。求職者が転職を考えた時には、通常は複数の転職メディアを利用しますが、その際に毎回登録時にかなりの負荷を感じています」
「最初の登録時はまだまだ元気ですが、何回も同じような情報を入力していると、だんだん疲弊してきて、結局はおなじみの大手の転職サイトに登録して、それ以外のところには登録しない、という状態が起きています。せっかく専門性を生かした転職サイトでも、肝心の登録者を集めるのに苦労している状態では、そこを利用する企業も伸びません」
「HRテクノロジーを駆使して、求職者目線で登録がより容易になる方法を求人メディアも考えていかないといけない時期になっていると思います。Parsing技術を使うことで、より求職者目線に立って登録が可能となりますし、より深い求職者情報を企業に提供できるようになります」
テクノロジーの発展で生産性は上がる
――今後の人材業界について一言お願いします。
「人材紹介事業において、先述した通り売り上げを伸ばす計算式は『コンサルタント数 x 一人当たりの月間成約金額』しかないわけです。人手不足は人材紹介市場も他業界同様に大変な状況です。成約金額は『成約単価 x 成約件数』ですから、これからの人材紹介企業の重要な経営指標の一つは間違いなく、いかにコンサルタント個人の成約件数を上げるか、しかないことは明白なのですが、それなのに以前と同じようにコンサルタントが求職者の情報入力や求人に見合う候補者探しに時間を費やしていては、生産性は上がりません」
「いかに企業と向き合い、求職者と向き合う時間をより多くとれるか、ということが勝負の分かれ目になるわけで、それ以外の作業は極力コンピュータにやらせる、という本当のHRテクノロジーが日本でも定着していく時期になったと思います」
◆世界で平均月間7000万枚の履歴書を処理する『Daxtra Technologies』
(HRog編集部)