【副業特集#04】副業容認企業の人事に聞く副業解禁のメリットとは?

リングロー株式会社
おもに人事
小俣 勇祐 氏
おまた・ゆうすけ/新卒でリングロー株式会社に入社後、人事部に配属。また、海外支店の立ち上げのため、1人でマレーシアに駐在。その後リングローで人事をおこないながら副業として2019年株式会社キャロットの代表取締役就任、副業案件のアウトソーシングを中心に、人材紹介や採用コンサルティング業務をおこなっている。

副業で採用はどう変わる?副業マーケット特集

政府が働き方改革の一環として副業を推進、大企業でも副業解禁が進むなど、副業マーケットが徐々に広がりを見せています。また、新型コロナウイルスの影響でリモートワークの体制が整い、個人が副業をはじめるハードルも下がっています。副業がより一般的なものとなりつつある中、今後企業と個人の関係性はどのように変化し、採用のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?本特集では変化の只中にある副業マーケットを追います。

今回は中古IT機器の販売を主力事業とするリングロー株式会社で人事を務める小俣氏にインタビューをおこなった。副業を容認し、実際に副業をしているメンバーもいるという同社。現在人事として活動しながら株式会社キャロットの代表取締役も務める同氏に、副業解禁のメリットと副業を容認する上で必要な組織づくりについて話を聞いた。

副業容認でエンゲージメントが向上

リングロー株式会社では2017年ごろ、副業が本格的に話題になる前から自社のメンバーに対して副業を容認していたという。副業を容認した背景には何があったのだろうか。

「もともと弊社の組織作りの考え方に『メンバー一人ひとりが置かれている環境や、やりたいことに合わせて柔軟に対応できる組織にしたい』というポリシーがあり、それを実現するための方法の一つとして副業を容認したのがきっかけです。例えば結婚などのライフイベントを控えて一時的に収入を増やしたいというメンバーや、弊社の事業領域とは違うフィールドでスキルを身に着けたいというメンバーに対しては副業を容認して、本人のやりたいことや達成したいことを最大限実現できる組織を目指しています」

そのような背景から副業を容認し、現在社員全体の2割前後が副業をおこなったことがあるという同社。副業を容認したことで、組織にどのような変化が生まれたのだろうか。

副業容認後の変化①:収入面を理由にした退職の減少

「一つ目は、収入を理由にした退職が減ったことです。弊社ではメンバーが定期的に上長・人事・社長と1 on 1をする機会を設けています。そのときにメンバーから給与を上げてほしいという相談を受けることもあるのですが、場合によっては会社としてなかなか対応するのが難しいときもあります。そのようなときにメンバーに対して副業をやってみるのはどうかと提案できるようになりました。結果として、収入面での相談や退職は減ったように思います」

副業容認後の変化②:メンバーのスキルアップ

「二つ目は、自社ではできない経験を副業で積んだことにより、メンバー本人のスキルアップにつながりました。弊社は中古PCの販売事業を行っているのですが、あるメンバーが副業で経験したPC機器の買取や撤去・情報処理のノウハウが、本業に活かされたことがありました。そのように自社ではできないことを経験することで、新しい知見が広がるのも副業のメリットだと思います」

副業容認後の変化③:他社と比較することによるエンゲージメント向上

「また副業で他社の仕事のやり方や指導方法を見ることで、あらためてメンバーのエンゲージメントが向上するという思わぬ効果もありました。特に新卒社員が多い会社の場合、他の会社と比較する材料がないので、メンバーに自社の良さが伝わりづらい場合は多いと思います。副業を認めたことで比較ができるようになり、自社の環境をいい環境だと気づいてもらうきっかけになりました」

同社が組織作りに力を入れているからこそ、副業を認めたことでエンゲージメントが向上するという効果が得らえたと言えよう。副業を容認するうえで「良い組織作り」は一つのキーワードになりそうだ。

副業容認は本人のキャリアプランと合わせて考える

リングローは副業したいと言っているすべてのメンバーに対して副業を容認しているわけではなく、このメンバーは副業をやった方がプラスになると思ったメンバーに対して容認しているという。

「具体的には『本人のキャリアプランやライフプランに沿った選択肢か』『自社では経験できない経験か』という観点で、メンバーにとって副業がプラスになるかを見ています」

それを引き出すためにも、一人ひとりがどのようなことを考えていて、今後どのようになりたいかは雑談の場や1 on 1で定期的にするようにしているらしい。

「特に今後はスキルを持った個人に様々な仕事がついてくる時代が来ると思っています。また弊社で活躍してもらうためにも、様々なスキルを身に着けてほしいという思いがあります。そのためただ単におこづかいを稼ぐためにアルバイトをしたいという要望はあまり認めておらず、代わりにメンバーのやりたいことを深堀したり、本業を頑張って昇給することで実現できないか提案したりしますね」

ここでも「メンバーが置かれている環境・やりたいことに合わせて柔軟に対応できる組織」というポリシーが反映されているようだ。

「実際に私もリングロー株式会社で人事業務に携わるとともに、株式会社キャロットの代表取締役として副業社員やフリーランスへ向けて案件を紹介する副業をしています。学生時代から『個人一人ひとりの個性を活かしながら社会に貢献できる世の中にしていきたい』という思いがあり、リングローでよりよい組織のあり方を模索しながら、キャロットで新しい働き方を望んでいる人を支援するという二足のわらじに挑戦しているところです」

その中で、メンバーの自己実現につながるのであればキャロットで獲得した案件をリングローの社員に紹介することもあるらしい。

「また実際に副業を認めたメンバーに対しては、本業と副業の2つの仕事を抱えて忙しくなり体調を崩したりしないかということを注意していました。そのため副業をしている社員の中には、早上がりや遅出などを認めているメンバーもいます。この点でもメンバーとコミュニケーションをとったうえで、柔軟な対応を意識しています。私自身も代表や他のメンバーとも相談し、現在はリングローの業務とキャロットの業務を1対1くらいの割合で携わっています」

副業を容認すると、メンバー一人ひとりの行動をすべて管理するのが難しくなる。だからこそ自分のキャリアや働き方についてフラットに相談できる場を組織として作っていくことが、副業容認のポイントになりそうだ。

多様な働き方を前提とした組織作り

最後に、副業を容認していく中で必要となる組織作りについて話を聞いた。

「多様な働き方をしている人材を活かすビジョンを経営層やマネージャーが持つことが一番大切だと思っています。弊社では本業1本でやっている正社員メンバー・副業もやっているメンバーが入り混じって働いていますが、副業を容認した当初は社内で働き方の多様性が高まって不公平感やネガティブな感情が噴出することがありました」

「そのようなときに組織として『なぜ、多様な働き方を認めているのか』を弊社が大切にしているブランドビジョンとセットでメンバーへ発信することで、多様な働き方をしている人材がいる組織としてのマインドセットが根付いていくのだと思います」

実際にリングローでは、副業容認を通して下記のようなメッセージを社内外に発信しているという。

「弊社では『情報社会に、新しいジャンルを創る。』というブランドビジョンを掲げています。PC・スマホなどの情報端末やインターネットの登場により、世界中の人々と簡単につながれるようになるなど、今まではできなかった事ができるようになりました。弊社ではその流れの中で新たな価値を提供することで、より豊かな社会を作っていきたいと考えています」

「そしてこの情報社会で価値を生み出すためには、『自分のもとに情報が集まってくる人間』になることが大切です。そのためこれからは単なるスキルだけではなく、自身の人柄や人間としての魅力も問われてくると考えています」

副業容認の意図は、副業を通してキャリアビジョン達成のために邁進したり、社外の人の様々な価値観に触れたりすることで、自身の人間性を高めてほしいという点にあるようだ。このように副業を容認する際には、ただ単に制度を作るだけではなく、会社が目指す姿との関連性をきちんと説明することでメンバーの納得感も上がりそうだ。

「よりよいキャリアを手に入れるための情報を簡単に得られるようになった今、会社としてもうすでに決まったキャリアプランを社員に押し付ける、というマネジメントは今後どんどん難しくなっていくと思います。これからは、メンバーに長く働いて活躍してもらうためには一人ひとりの実現したいキャリアに向き合い、トータルで支援するというスタンスが必要になると思います。その中で、副業を容認するという選択肢は今後当たり前のものになっていくのではないでしょうか」