採用の「ものさし」になる。HR forecasterの登場で変わる人材営業の価値

パーソルキャリア株式会社
クライアントP&M本部 プロダクト統括部 HR forecaster部 ゼネラルマネジャー
石川 悟 氏
いしかわ・さとる/2004年より、株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に新卒で入社し、さまざまなHRサービスにて営業、コンサルティング、組織運営を行う。 2015年に社内のインキュベーションプログラムを経て新規事業の責任者を務める。HR領域の幅広い知識をもとに複数の新規サービスの企画・開発に従事、現在は「HR forecaster」のサービス責任者を務める。

パーソルキャリア株式会社が提供する「HR forecaster」は、転職サービス「doda」が蓄積したデータを元に、採用ターゲットの作成をサポートするツールだ。採用要件を入力すると採用難易度や市場データが可視化され、根拠をもった求人票の作成が可能になる。今回はHRog編集部が「HR forecaster」を実際に体験。さらに、開発陣に開発の背景や目指す未来についてインタビューする。

採用難易度を可視化する「HR forecaster」とは

「HR forecaster」は「doda」が保有する100万件以上の転職データを活用し、自社によりマッチした人材ターゲットを見つけることができる「採用ターゲット設定」に特化したツールだ。

「ある条件を満たした人材」が市場に何名存在しており、年収のレンジはいくらで、採用決定までに平均してどのくらい時間がかかるものなのか。かつて、一企業の人事担当がそういった「採用の相場」を把握することは非常に難しかった。明確な指標を持てないまま、なんとなく採用要件が決められることは今でも珍しくない。「HR forecaster」はそんな人事担当者にとっての採用の「ものさし」になることを目指して作られたサービスだ。

「HR forecaster」サービス責任者の石川氏によると、現在の中途採用市場は「DX」「新規事業の創出」といったキーワードのもと、社内にはない知見やスキルをもった人材を求める企業が業種を問わず増えている。「そのような機運が高まる中で、多くの人事担当が苦しい立場に立たされるようになった」という。

「人事担当者の方が特に苦労されているのが、現場メンバーとの目線合わせです。現場がほしいと思っている人材の要件が高すぎて、そもそも市場にマッチする人材が少なかったり、提示する年収が適切でなかったりすることもしばしばあります。にもかかわらず、現在の要件と市場の乖離を示す客観的なデータが人事の手元にないため、『採用できないのは人事担当者の努力不足なのでは?』と責められることが増えているのです」

「HR forecaster」は、採用マーケットのデータを通して人事担当者と現場社員の認識のズレを埋める役割を果たしているという。「HR forecaster」の登場によって、人材営業はどう変化するのだろうか。

「『HR forecaster』は、人材営業の人にとっても新たなチャンスを生むツールになると考えています。今までは人材営業の中でも採用戦略の立案に必要な情報がなかなか手に入らず、根性や熱意一つで営業活動をしている人も多くいました。しかし『HR forecaster』を利用すれば、データや根拠に基づいた提案が可能になります。人材営業がお客様により良い提案をするために、『HR forecaster』が必要不可欠な存在になれればと思います」

リリースから1年半経った2023年6月現在、「HR forecaster」は1,500社以上の企業に導入されている。利用している採用担当者からは「時間がかかっていた要件定義のスピード感が上がった」「データを参考にすることで現場の社員が採用要件の緩和を逆提案してくれるようになった」などの声が上がっている。

HRog編集部の求人要件をチェックしてみた

「HR forecaster」はインターネット上で無料で利用できる点も特徴だ。そこでHRog編集部も実際に使用してみた。

今回チェックするのはHRog編集部の架空の採用要件。オファー年収や業種・職種、求める役割のグレードなどを入力していく。その他にも社会人経験年数や学歴、経験、スキルなどの条件を6つまで追加でき、その優先順位が設定できるようになっている。

今回はHRogの運営を任せることを想定し、「コンテンツ企画・編集」の経験がある人材を募集してみた。入力が完了したら、いざ診断。この条件で人材は採用できるのか、緊張感が高まるがはたして……。

診断結果は星2つ。残念ながら、この条件では採用が難しいとの結果だった。画面右側のレーダーチャートを見ると、「平均年収」「候補者数」「他社求人数」の項目が星1と非常に低スコアになっている。

「HR forecaster」によるとこの条件を満たす人材の平均年収は522万円で、設定したOffer年収とは-172万円の乖離があるようだ。相場から150万円以上低いとなれば、確かに採用は難しいだろう。また条件を満たす候補者数が2,000人と、そもそもターゲットの母数が少ないことも分かる。同職種全体の希望者数は28,000人なので、条件を緩和すればもっと多くの母集団を形成できそうだ。

続いて、この診断結果をもとに求人要件をブラッシュアップしてみた。

主に変えたポイントは、オファー年収と経験・スキルの2点。年収相場を参考にしてオファー年収を100万円引き上げた。そして、「コンテンツ企画・編集」のスキルまたは「人材サービス・アウトソーシング・コールセンター」いずれかの経験があれば良いという形に条件を広げてみた。

今回の採点結果はどうだろうか……?

結果は星5つ。オファー年収が相場と合致したほか、条件を満たす候補者数も16,000人と十分な人数になった。

求人要件を採点してくれるだけでなく、採用できない要因はどこにあるのか、どう改善すればいいのかが明確になるため、採用要件の見直しがスムーズに行えそうだと感じた。そして要件変更を現場や上層部と交渉する際にも、このデータを根拠として利用すれば人事担当者の負担が軽くなることは間違いないだろう。

人事がレベルアップすることで、人材営業の価値が変わる

「HR forecaster」は、いわば人材系企業が保有していた採用市場データを、採用企業側が自由に閲覧できるようにしたツールだ。「HR forecaster」が採用企業の間で広まり、誰もが人材市場の動向を確認できるようになれば「人材ビジネス市場全体のリテラシーも加速度的に高まるだろう」と石川氏は続ける。

「インターネットの普及を経て、個人が手に入れられる情報量は各段に増加しました。例えば家電製品を買う際に、我々は比較サイトを見てどの製品を買うべきか吟味できます。採用においても同様に、もっと市場の情報が公開されて企業にとっての最適な選択に繋がればよいと考えて『HR forecaster』を開発しました。

一方で、我々も全てのデータをお客様に公開しているわけではありません。細かいデータになればなるほど扱いが難しくなり、かえって混乱してしまうためです。だからこそ、これからは採用分析の手厚いサポートやコンサルティングが、新しい人材営業の価値になっていくのではないでしょうか。

データを世の中に広く公開することで採用企業のリテラシーが高まり、私たち人材営業も負けじとレベルの高い提案をしていく。それによってさらにお客様の理解レベルが上がる……そんな好循環を生み出せれば嬉しいです。この循環こそが健全なマーケットの発展と、採用効果の向上には不可欠なのだと考えています」

かつては人材会社のみが情報を保有し、それを求人企業と求職者に提供することを介在価値としていた。しかしこれからは、公開されている情報を求人企業と一緒に読み解き、提案する力が求められていく。時代の過渡期で、人材営業の介在価値は変化しつつある。

データの提供だけでなく「どう活かすか」までサポートしたい

石川氏は「HR forecaster」の今後の展開について「機能面やUXのさらなる改善を続けていきたい」と意欲を語った。

「『doda』が有する膨大な転職データを使用していることがこのサービスの最大の強みですが、ただ単にデータを出すにとどまらず『どう活用すればいいかまで示す』という観点ではまだまだ伸び代があると思っています。入力いただいた採用条件を5段階で評価する『総合評価』ページや、他のパーソルグループのサービスとの連携など、お客様がスムーズに採用活動を進められるようにするための改修に力を入れて取り組みたいです」

採用活動を行う上で、採用要件の作成は一番最初のステップだ。その後の行動の精度を上げる観点からも、採用市場のデータは大きな役割を果たすだろう。

「採用現場では『人がいない』という言葉がよく飛び交います。そこで重要になるのが、ターゲットをチューニングするという考え方です。『HR forecaster』を活用すると、条件を緩和することで候補者の幅が大きく変わることを実感できると思います。なかなか採用できず足踏みしている人事担当者や人材営業の業務をより良いものにするためのツールとして、ぜひ利用いただけると嬉しいです」

(鈴木智華・舟橋実穂)