SaaS型プロダクト開発で派遣業界のDXを実現する キャスティングロード新事業への挑戦

株式会社キャスティングロード
事業推進本部 採用コンサルティング事業部 次長
山下 有人氏
やました・ゆうと/CRGホールディングス株式会社(マザーズ上場)のグループ会社へ入社後、中核である人材派遣紹介事業の集客部分を支える広告購買責任者に着任する。 年額数億円の購買を通して培った経験を基に2020年10月より企業の採用担当者様を支援する「採用支援事業」を立ち上げる。採用担当者が直面する課題に対し、同じ運用する側としての立場で新たな戦略や制度設計を支援している。

働き方改革や新型コロナウィルス感染症の流行により、働き方が多様化している中、人事領域においても業務効率化やIT化などが注目されている。今回は、人材派遣事業を主軸としながら、採用レポート作成を自動化するSaaS型プロダクト開発を行った株式会社キャスティングロードの山下氏に、新規事業の立ち上げ秘話や派遣業界のDX成功の鍵について話を伺った。

データ統合で派遣企業のバックオフィスに光を当てたい

採用責任者としてグループ企業内全体の採用代行を行ってきた山下氏。その中で課題に感じたのは、人材派遣業界の採用業務のアナログ感や、全国的な横断施策がなく仕事が属人化している状態だった。

「派遣企業は売り上げ目標達成が第一義で動いています。アナログ運用や業務の属人化を改善しなければならないと思ってはいても、バックオフィスの仕事にリソースを割けていない企業が多いのです。

またバックオフィスの人たちも目の前の業務に追われてしまい、業務改善にまで手が回りません。派遣企業内のパワーバランスとしては直接売上を立てる営業部門の方がバックオフィスよりも強い傾向があるため、バックオフィスの人はなかなか評価が上がりづらい環境にありました」

このような現状に対して、『バックオフィス部門でも頑張りが正しく評価され、企業内での地位が向上する環境を整えたい』と考えていたという。実際、バックオフィスが営業側からは見えない領域で業務改善をすることで、結果として売上アップや利益率の向上に繋がることもあるはずだ。そこには、派遣企業のバックオフィスの理解者として何かしたいという想いがあった。

「まずは採用責任者として、社内の改善を行いました。支店ごとの属人管理をオープンにするため、全社共通のフォーマットを作成したり、データ取得の入力規則を整備したりして、アナログ運用されていたものをデータ化しました。データ統合をするこの過程に費やした期間は約2年間ほどです。

長い時間かかりましたが、この取り組みを通じて採用担当者の頑張りが表現できるようになりました。つまり、コスト部門が売上を生産している、これまで後回しになりがちだった部分の改善を図っている、ということが伝わるようになったのです。

これによって採用部門のメンバーたちの評価が段違いに変わってきたり、自分も社内で表彰されたりと、成功体験を積むことができました。そこから、他の企業で頑張っている採用担当者の支援ツールとしても展開できるんじゃないかと思い、外部向けサービスとして企画しました」

派遣企業ならではの悩みをサービス開発に繋げる

派遣会社だからわかる「人材業界に眠っている課題」を強みに

それまで主軸としてきた人材派遣とは全く違った分野での新サービス開発には、経営者から同意を得るのにも工夫が必要だった。山下氏は2つのアピールポイントを用意したという。

1つ目は、『社内で眠っている課題』をオープンにしたことです。どの企業にもバックオフィスで誰も気付いていない課題や、隠していたりする部分が少なからずあると思うのですが、それを明確にして経営者に伝えました。課題と先ほど述べた社内での改善例をあわせて伝え、社内で発生している課題は人材業界全体の課題にもなり得ることをアピールしました。

2つ目は、『市場の分析結果』です。市場調査では、現在HRTechとして提供されているサービスを大きく分類して考えました。どのような分類かというと、採用管理システム(ATS)やタレマネなどの採用管理系のほか、人事配置系、労務管理系、育成定着系の4つの大きな市場です。これらの領域がほぼレッドオーシャンであったのに対し、採用データの統合サービスはそのどこにも属さないブルーオーシャンであることが強みとして見えてきました。

また、HRTechの多くは実際に人材業を手がけていない企業がIT技術を駆使して作ったサービスだということにも気付きました。そのため、我々のような人材業をメイン事業としてやっている企業から生まれたサービスの価値は高いんじゃないかということをポイントに、勝算を示しました」

パートナー選びのポイントは「業界への理解」

熱いアピールによって社内の承認を獲得した山下氏。しかし派遣事業が母体となる同社では開発にあたっての苦労も多かったという。

「そこからいざ開発を進めようと思っても、社内に外部向けのエンジニアがいないことがネックになりました。また、それまで私がやってきたことはあくまで社内のみの運用に適したデータ統合であり、外部向けのサービスとして開発するとなれば『ユーザー目線』が必要になります。外部向けのサービス作りに関して、幣社にはあらゆる知見が不足していることに気づいたのです。

そこで外部のパートナー探しを始めたのですが、ITや開発に強いものの人材業界に知見がない企業が多く、一つの用件を詰めるまでにかなり時間がかかりました。

最終的には株式会社フロッグと開発を進めることに決定したのですが、決め手は人材業界とIT技術の両方に造詣が深く、開発に向けて走り出すイメージがしやすかったところです。人材会社がゼロからプロダクト開発を行う、IT技術はもちろん人材業界に関しても実際の運用レベルまで話が通じ、要件定義の段階で見通しが立つパートナーをいかに見つけられるかが鍵になると思います」

このような過程を経て開発されたのが『採用見える化クラウド』だ。派遣企業のバックオフィスや営業部門などに眠っている、求人・広告媒体のデータ、面接・採用のデータ、入社後の勤怠データの3つを統合して網羅的に見られるデータ分析用サービスとなっている。

「紙管理が多く、管理されている場所もバックオフィスだったり営業部門だったりバラバラになっている。そんなデータをどのように取得していくか、綺麗な状態に整えていくかというデータ統合の仕組みは、特に派遣事業社ならではの知見を活かせた部分だと思っています」

派遣業界のデータ統合・デジタル化を当たり前に

山下氏は、『採用見える化クラウド』はサービスとしてまだ通過点だと話す。今後さらにITソリューション事業を広めていくにあたっての展望を尋ねた。

「今後は『採用見える化クラウド』で集めたデータを使って採用戦略を逆算できるツールにしていきたいと思っています。データを集積することによって需要発生のタイミングや時勢の影響を予測し、これだけの採用をするにはどれくらいのコストがかかるのか、などが把握できるツールにしていきたいです。

また、まだまだ派遣業界には紙運用の企業が多い中で、データのデジタル化と統合を当たり前にできるような仕組みも考えたいですね。勤怠管理や求人原稿をまだ紙で管理している企業は多いです。これらをデジタル化した上で、さらに複数の媒体会社との連携をシームレスにするなどの形で工数削減を支援できると思っています」

山下氏が目指す最終目標は、派遣業界全体のDXだ。そのためには「業界全体でDXしていこう」という意識を当事者たちが持つことも非常に重要になる。

「まずは派遣業界で働く皆さんに、派遣業界自体がかなりデジタル化の波に乗り遅れているという認識を持ってほしいです。その上で、自社のバックオフィスに眠っている課題を洗い出しましょう。課題解決のためには社内に眠ってるデータを活用できるケースも多いので、社内にあるデータの現状把握やバックオフィスの見直しをすることで、改めて自社の強みが見えてくるのではないでしょうか。

また企業側には、DX化のための取り組みに対して、バックオフィスであっても個人的なメリットをしっかり受け取れるような環境を設定してほしいです。現状にメスを入れて環境改善を行うのは負担が大きいので、誰もがやりたくないことだと思います。それを乗り越えてDXを進めるには、実際にその作業をやる現場の人にいかにメリットを提供できるかが重要になります。我々としても、社内制度としてDXを推進する環境が作れるよう、サポートしていきたいと考えています」

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