職業安定法が改正され、2020年10月1日より施行されました。改正内容を知らないまま事業運営を続けていると、意図せず違反してしまう可能性もあります。そうならないために、人材業界の人は必ずチェックしておきましょう。
今回は厚生労働省がまとめている改正に関するQ&Aから、「個人情報」「事業の情報公開」「苦情の処理」「指導監督」「職業紹介と募集情報等の区分」についての要点を抜粋し、分かりやすく解説していきます。
目次
個人情報について
職業安定法では、個人情報に関する規定を以下のように定めています。募集情報等提供事業者もこの規定を守る必要があります。
- 求職者の個人情報を収集する際には、業務の目的を明らかにしなくてはならない
- 業務の目的の達成に必要な範囲内で、求職者の個人情報を収集・使用・保管しなくてはならない
- 業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない
- 求職者の個人情報をみだりに第三者に提供してはならない
個人情報がどのような目的で収集・保管・使用されるのかを求職者が想定できる程度に具体的に明示してください。
✖「募集情報等提供のために使用します」
〇「求人情報に関するメールマガジンを配信するために使用します」
〇「会員登録時に入力いただいた情報を、当社の会員企業に提供するために使用します」
サービスの提供など適切な業務遂行に必要な範囲を言います。
たとえば、募集情報等提供事業が求職者の属性に応じたレコメンドを行うために職歴情報を収集したり、その情報をサービスの向上のために匿名化し統計処理したりすることは範囲内に含まれます。
一方で、募集情報等提供のために収集した個人情報を、職業紹介のために求人企業に提供した場合、「業務の目的の達成に必要な範囲」には入りません。
職業安定法では、個人情報の取得において本人の同意が必要な場合について定めています。その場合には「同意を求める事項の明示」、「同意をサービス提供の条件としないこと」、「明確な同意の表示」を求められます。
「同意をサービス提供の条件とする」とは、たとえば募集情報等提供のために収集した個人情報を、全く別の商品販売のために使用することに同意をしないとサービスを利用できないなどの条件をつけることが該当します。このような条件付けは禁止されています。
「明確な同意の表示」とは、本人の同意の意思が明確に示されることを言います。
例えば、サイト上で個人情報の利用規約を示した上で、求職者がチェックボックスをクリックしたことを同意とみなすことはOKです。
一方で、単に利用規約を示しただけでチェックボックスなどは設置せず、求職者がサービスを利用開始したことを同意とみなすことは「明確な同意の表示」として認められません。
報酬受領の禁止について
職業安定法では、求人に応募した求職者から応募の対価として報酬を受けとること(報酬受領)を禁止しています。
応募に関係なくシステム利用料や登録料を徴収することは問題ありません。ただし、システム利用料や登録料の名目で、実質的には応募の対価を得ている場合、報酬受領にあたるとして法律違反となります。
事業情報の公開について
必ず公開しなければいけないわけではなく、あくまで努力義務ですが、求職者のために以下の情報を公開することが望ましいです。
- 労働者の募集に関する情報の的確表示について
- 苦情の処理について
- 個人情報の適切な管理のための措置について
- 求人情報・求職者情報に順位をつけて表示する場合に用いられる事項について
求人サイトなどには、新着情報や有料プランの求人などが検索結果の上位に表示される仕組みになっているものがあります。
「求人情報・求職者情報に順位をつけて表示する場合に用いられる事項」とは、サイト上で求人情報・求職者情報の表示順に順位をつける場合、その順位決定に影響を与える要素のことです。以下のような事項が含まれます。
- 情報の公開日
- 求職者の属性
- 検索キーワードとの関連性
- 利用者の閲覧履歴
- 有料プラン など
ただし、表示順を決定するアルゴリズムの詳細や計算手順などは公開する必要はありません。
苦情の処理について
例えば「求人内容が間違っている」と苦情が入った場合、すぐに求人を出している企業に内容の確認をおこなう、求人の掲載を中止するなどの対応が当てはまります。求人企業による法律の理解不足が苦情の原因であれば、是正の依頼や啓発をおこなうこともよいでしょう。
必ずしも苦情を解決まで導く必要はありませんが、苦情に対応せず放置すると義務違反になります。また、求人企業や他の募集情報等提供事業者などが法律違反をしている場合には、都道府県労働局に情報提供をしてください。
事業の規模によって求められる体制は変わりますが、少なくとも電話番号、メールアドレス、問い合わせフォームなどの相談窓口を明確にし、苦情を受け付けられる体制にしてください。
指導監督について
違反があった場合、基本的にはまず是正指導が行われます。是正指導に従わない場合や悪質なケースなどには、改善命令や事業停止命令などの行政処分となります。
職業紹介と募集情報等提供の区分について
リコメンドにおいて以下の行為をおこなっている場合は、職業紹介とみなされます。
- 事業者の判断で選別した情報のみを提供する、または選別した相手のみに提供する
- 事業者の判断で、求人企業や求職者に応じて情報を加工して提供する
- 求人企業と求職者のやり取りを仲介をする場合に、事業者の判断でやり取りを加工する
ケースバイケースですが、基本的には以下のような判断がされます。
- サイト上では求人情報(求職者情報)を全件検索できるが、その上で一部の求人(求職者)をリコメンドする場合は職業紹介には当てはまらない
- 原則求人は非公開としたうえで、特定の求人を情報提供・リコメンドする場合は職業紹介に当てはまる
例えば求人企業から「看護師資格を持っている人にだけ求人を配信してほしい」と依頼があり、それに従って看護師資格を持っている人にだけ求人情報を提供した場合は、事業者の判断により選別したことにはなりません。したがって職業紹介には当てはまりません。
一方で、求人企業からはとくに指示がない場合に、求人内容や求職者の属性によって情報提供する求職者を絞った場合には、事業者の判断により選別したことになるため職業紹介に当てはまります。
ここで言う情報の加工とは、個別の求人企業や求職者に応じたオーダーメイドな加工を指します。したがって、以下のような場合はこれに含まれます。
- 求人企業の情報と求職者情報を照らし合わせ、採用後の給与の可能性など求人情報に記載されていないことに関するメッセージを付加して送る
- 応募する求人に応じて求職者の履歴書を改変・付加する
一方で、以下のような場合は当てはまりません。
- 一か月以内に掲載開始された求人に「新着」と付加して表示する
- 求職者情報を統一的に匿名で表示する
- 求人企業について、くるみん取得企業など一般的な情報を付加する
求人企業と求職者がサービス内のメール機能やチャット機能などを通してやり取りしている場合、サービスを提供する事業者がメッセージの追記・改変・削除をすることです。
その他、求職者の履歴書を事業者自ら改変した場合や、採用可能性が高いと思われる求職者のメッセージを求人企業に優先的に届けた場合などもこれに当てはまります。
まとめ
今回は「個人情報」「事業の情報公開」「苦情の処理」「指導監督」「職業紹介と募集情報等の区分」のQ&Aについて紹介しました。自社サービスが規制対象になっていないか確認し、すみやかに対応を行いましょう。詳しくは厚生労働省HPのQ&Aを確認してください。
前編では「募集情報等提供」「特定募集情報等提供」「的確表示」について解説しています。
【参考URL】厚生労働省「令和4年職業安定法の改正について」