今年も人材業界各社の通期決算がほぼ出揃いました。昨年に引き続き、各社の売上高・営業利益から人材業界をまとめたレポートをお送りします。
昨年度はこちら。
昨年度は、多くの企業でコロナ禍からの回復と成長が見られた一方、飲食業や製造業などではまだパンデミックの影響が続いていました。それから1年が経ち、外出・インバウンド需要が回復し経済活動の正常化が進んだ2023年度は、各社どのような業績となったのでしょうか。ぜひご覧ください。
総合サービス企業
総合人材サービスでは、各社得意とする職種や分野の違いによって業績に差が生じました。
リクルートホールディングスは、円安ドル高の影響により売上収益が19.4%増の3兆4,295億円となり、過去最高を記録しました。為替のプラス影響を控除した売上高は前年比で9.4%増となっています。一方で、米国においてコロナ禍以後に高まった採用意欲が平準化したことが原因で、営業利益は前年度から9.1%減の3,443億円で着地しました。同社は今後の景気後退への懸念から、「Indeed」などを運営するHRテクノロジー事業で人員削減を実施。それに伴う解雇給付金により176億円の損失が発生しました。
一方国内では人材需要が引き続き堅調な回復を見せており、求人広告・人材紹介・派遣のすべての分野で増収となりました。求人広告・人材紹介などを手がけるマッチング&ソリューション事業では、売上収益がコロナ禍以前の2019年度の7,559億円を上回る、15.5%増の7,606億円となりました。
パーソルホールディングスでは、売上高は前年比+15.4%の1兆2,240億円と大きく成長しました。主力の人材派遣事業が堅調に推移したことに加え、その他全てのSBUで増収したことから、営業利益は前年比10.2%増の531億円となっています。中でも「doda」をはじめとする人材紹介サービスや転職メディアを運営する「Career SBU」において前年比 +113.8%と大幅に増益。前年に引き続き転職市場が活況なことや、ホテルや観光などのサービス業の需要が旺盛であったことが要因として挙げられます。その他、同社はBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)サービスの需要の高まりを受け、2023年3月に「BPO SBU」を新設しています。
パソナグループは、コロナ感染が収束に向かい、医療関連の人材派遣の特需が減ったことなどが原因で前年比34.9%の減益となりました。また事業の拡大に伴い、大型プロモーションの広告宣伝費などの販管費が増加しています。事業別では、人材派遣事業は低迷したものの、BPOやアウトソーシング事業は好調でした。アウトソーシング事業では福利厚生代行の「ベネフィットワン」において、M&Aによる成長に加え公務員共済組合の非常勤職員の加入が拡大し、売上が前期比+10.5%となりました。
また外資系企業では、主に欧米での経済の低迷による影響を受けた減収・減益が発生しました。マンパワーグループでは前年比-670名の人員削減を行いました。
求人媒体企業
2023年度はコロナ禍が明けたことで雇用情勢が回復し、求人メディア・人材紹介は多くの企業で増収となりました。
クイックでは採用ニーズの回復により人材サービス業が業績を牽引し、昨年に引き続き2年連続で売上・営業利益ともに過去最高を更新しました。また求人メディア「Type」を運営するキャリアデザインセンターは、エンジニアの女性領域やミドル領域などの新規開拓で取引社数を増加させ、過去最高の売上・営業利益を記録しています。
また飲食業界の有効求人倍率がコロナ禍以前の水準に回復し、去年までは売上・営業利益ともに低迷していたクックビズが2019年ぶりの黒字化を達成しました。
今年は増収に伴い新規事業や事業拡大に向けた投資を行った企業が多く見られました。エンジャパンは投資事業である採用支援ツール「engage」の売上が順調に伸びていることを受け、来期以降の更なる成長戦略に向けた広宣費の追加投資を実施。i-plugは既存事業の「OfferBox」に加え、新規事業である20代・30代向けオファー型転職サイト「PaceBox」に積極的に投資を行いました。垂直立ち上げを狙ったものの、リリース遅延や事業運営体制の構築遅延によって内定決定が出始めたのは23年1月以降となり、大きく赤字幅が拡大しました。
その他、2023年7月には、医療・福祉分野に特化した人材サービスを運営するトライトが新たに東証グロースに上場しました。医療・福祉分野で多くの契約企業と登録者の基盤があることを強みとし、人材紹介や派遣で順調に売上を伸ばしています。
人材派遣サービス企業
派遣業界では、人材ニーズが堅調に推移したことで多くの企業で増収増益となりました。特に技術者派遣と事務派遣、クリエイティブ関連領域派遣は昨年に引き続き好調でした。技術者派遣では、UTグループ・アルプス技研が過去最高売上を更新したほか、2023年7月には建設業向けの技術者派遣を手掛けるナレルグループが新たに東証グロースに上場しました。
昨年はコロナ禍の影響で低迷していた製造業も、2023年は順調な回復を見せました。nmsホールディングスでは、上期にかけては海外進出先の中国ロックダウンによる稼働制限や部品不足、部材価格高騰などの影響を受けたものの、第3四半期以降、部品不足が緩和したことで稼働が増加しました。結果、売上高、利益とも前年比で大幅に改善しています。
クリエイティブ関連領域では、昨年から引き続きクリーク・アンド・リバー社とコンフィデンスが過去最高の業績を達成。クリーク・アンド・リバー社はメタバース等の新規事業へ積極投資しながらも、既存事業で順調に売上を伸長させたことで計画を上回る40億円の営業利益となりました。
まとめ
人材業界の2023年度は、経済活動の正常化により人材需要が活発化した1年でした。昨年はコロナ禍の影響が解消しきれていなかった飲食業や製造業でも、今年は求人数が回復しています。特にホテルや観光、販売などのサービス業において求人数が大幅に改善し、そうした職種を強みとする人材サービスは好調な売上を記録しました。
一方コロナ禍で発生した医療関係の特需などが収まった影響で、昨年からの反動が見られる企業もありました。需要のある領域へと柔軟にシフトしていくことが人材サービスの今後の明暗を分けそうです。また米国における経済の冷え込みは著しく、国内人材サービスにも少なからず影響が波及すると見られています。
次の1年はどんな人材業界地図となるのか、来年度も引き続き注目していきます。
・総合サービス企業
リクルートホールディングス決算短信
パーソルホールディングス決算短信
パソナグループ決算短信
アデコ2022 年度第 4 四半期、2022 年度通期
ランスタッド会社概要
マンパワーグループ決算
・求人媒体企業
株式会社マイナビ決算公告第50期
株式会社ネオキャリア会社概要
エン・ジャパン株式会社決算短信
ディップ株式会社2023年2月期 第4四半期及び通期 決算説明資料
株式会社エス・エム・エス2023年3月期決算及び会社説明資料
株式会社アイデム会社概要
株式会社クイック2023年3月期決算説明資料
株式会社じげん2023年3月期第4四半期決算説明
株式会社キャリアデザインセンター2023年9月期決算説明資料
株式会社リブセンス2022年12月期決算説明会資料
株式会社学情2022年10月期(第45期)会社説明資料
株式会社アルバイトタイムス2023年2月期通期決算説明資料
株式会社インターワークス2023年3月期決算説明資料
ウォンテッドリー株式会社2023年8月期決算説明
i-plug 2023年3月期決算説明資料
クックビズ株式会社決算説明資料
株式会社アトラエ2023年9月期決算説明資料
株式会社ワンキャリア2022年12月期通期決算説明資料
ビジョナル株式会社決算説明資料
株式会社LITALICO 2023年3月期決算説明資料
株式会社ジェイ エイ シー リクルートメント2022年12月期決算説明資料
株式会社MS-Japan2023年3月期決算補足説明資料
株式会社サーキュレーション2023年7月期通期決算説明資料
株式会社ジェイック2023年1月通期決算説明資料
アクシスコンサルティング株式会社2023年6月期通期決算説明資料
株式会社トライト決算説明資料
株式会社ココナラ2023年8月期通期決算説明資料
株式会社ビザスク2023年2月期通期決算説明資料
・派遣企業
テクノプロ・グループ決算説明資料(2023年6月期)
UTグループ株式会社2023年3月期決算説明資料
株式会社メイテック2023年3月期決算説明資料
株式会社オープンアップグループ2023年6月期決算説明資料
WDBホールディングス株式会社2023年3月期決算説明資料
株式会社アルプス技研2022年12月期通期決算説明会
株式会社ナレルグループ決算
株式会社アウトソーシング2022年12月期決算説明資料
株式会社ワールドホールディングス2022年12月期決算説明資料
NISSOホールディングス株式会社2023年3月期決算説明資料
nmsホールディングス2023年3月期決算説明資料
株式会社ウィルグループ2023年3月期決算説明会
ライク株式会社2023年5月期決算説明資料
株式会社エスプール2022年11月期[第22期]決算説明資料
キャリアリンク株式会社2023年3月期決算説明会資料
株式会社フルキャストホールディングス2022年12月期決算説明資料
株式会社ソラスト2022年度決算説明資料
株式会社クリーク・アンド・リバー社決算短信
株式会社コンフィデンス2023年3月期通期決算説明資料