【人事データ活用#02】非言語情報の分析で1on1はどう変わる? 村田製作所「NAONA」の事例

(左上)株式会社村田製作所
モジュール事業本部IoT事業推進部
データソリューション企画開発課 シニアマネージャー
笹野 晋平氏
ささの・しんぺい/1999年 立命館大学経済学部卒業、電子部品系メーカーを経て村田製作所入社。営業部門にて営業現場業務に従事した後、マーケティング部門にてIoTに関連した新規ビジネス創造の立案に携わる。その後、企画部門、開発部門を経て、現在はIoT事業推進部にてNAONAのプロジェクト推進に従事。

(中央)株式会社村田製作所
モジュール事業本部IoT事業推進部
データソリューション企画開発課 マネージャー
前田 頼宣氏
まえだ・よりのぶ/2007年 京都大学大学院工学研究科修士課程修了、 同年、 株式会社村田製作所入社。電子部品の材料開発に携わった後、ゼロ・エネルギービルディングに関する新規事業企画と開発リーダーを担当。その後、開発部門にてNAONAのコンセプト立案を担い、現在はIoT事業推進部にて事業、サービス企画や開発に従事。

(右上:インタビュアー)株式会社コーポレイトディレクション
コンサルタント
臼山美樹 氏
株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)にて約200社の法人企業への採用支援、および約1000名の個人への転職支援に従事した後、インドネシア拠点に出向し日系企業向けの人材紹介業務を担当。その後、経営戦略コンサルティングファーム、コーポレイトディレクション(CDI)に参画。CDI参画後は中期経営計画策定支援や人事制度改革支援、ASEANでの成長戦略策定支援等に従事。

リアルタイムワークデータで「はたらく」を変える。人事データ活用最前線

近年人事データの活用、いわゆる「ピープルアナリティクス」が注目を集めている。最近は、従来の人事データのみならず、日々の「はたらく」にかかわるデータ(リアルタイムワークデータと呼ぶことにする)を広く収集・活用しようとする動きが広まってきている。それに伴い、センシング技術やウェアラブルデバイス、オンラインツール等、「はたらく」を可視化するツールも続々と登場してきている。本特集では、新しい「はたらく」にかかわるデータの収集・活用の取り組みに焦点を当てながら、人事データ活用の最前線を追う。

今回は、リアルタイムワークデータ活用に向けた先進事例として、会話データの収集・活用ツール「NAONA」を開発している村田製作所の笹野氏と前田氏に非言語情報の分析による1on1への効果について話を聞いた。

効果的な「1on1」が実施できない企業が多い傾向

社員の成長促進を目的として、上司と部下が1対1で対話を行う「1on1」。近年、EX(従業員体験)向上や生産性向上のために、多くの企業でも1on1の導入が進んでいる。しかし、コロナ禍で急速に進んだリモートワーク環境下では、効果的な1on1が実施できていないといった課題も挙げられており、「NAONA」の需要も伸びているという。

前田「最近は、リモートワーク中の上司・部下の関係性構築やマネジメントの難易度が上がっていることに課題を感じる企業が多いです。リモートワークは、出社時と比べ社員同士のコミュニケーション機会が減少するので、オンラインでつながっている時間以外は、お互いの様子や何をしているのかが見えず、どうしても『チーム感』を醸成しにくくなってしまいます。このように、接触回数の減少によるマネジメント不全に課題を抱える企業が増えたことで、相談を受けるケースもあります。

また、それ以外の需要として一番多いのは『1on1を導入してみたものの上手く実施できていない』『効果が出ているのかどうか分からない』などのケースです。1on1はクローズドな空間なため、うまくいっているかどうかの振り返りが難しいことも、ニーズが高まっている要因と考えられます」

1on1の効果を測る指標は「上司と部下の発言量」

コロナ禍でのテレワークや効果的な1on1が実施できていないなどの課題からニーズが高まる「NAONA」とは、具体的にどのようなツールなのだろうか。

前田「『NAONA』は、会話データを収集し可視化するツールです。センシングデバイスやPC内のアプリによって、オンライン・オフライン問わず会話データを収集することができ、収集した会話データをもとに、非言語情報(発言の量、長さ、テンポ等の話し方)を分析します。これにより、話し方の傾向や参加者の関係性を可視化することが可能となります」

非言語情報は普段の会話で意識されづらい部分であるため、利用者にとっても大きな気付きがあるという。実際に、1on1の会話を分析することで、どのようなことが可視化できるのだろうか。

前田「上司と部下との会話を分析することで、どのような割合で話していたか(発言量)と、会話の種類(面談モード)が分かります。データでは、上司と部下の発言1回当たりの発言時間によって大きく4つにラベリングしており、2人とも長い場合は『議論』、上司が長く部下が短い場合は『ティーチング』、その逆の場合は『コーチング』、2人とも短いと『雑談』というように識別します。

1on1では、部下の自主性を引き出す必要があるため、この4つのラベリングでいうところの『コーチング』の時間を増やすことが重要です。分析の結果、『コーチング』が短かった場合は、今後どのようにして増やしていけばよいかを検討する材料として、1on1の改善に活用してもらうことができます」

『NAONA』分析結果の一例
『NAONA』分析結果の一例

管理者研修に取り入れることでコミュニケーション改善も期待

課題を抱える企業も多い1on1の場面でも有効活用できる「NAONA」だが、実際にはどのようなシーンで取り入れられているのだろうか。

前田「現在は研修などとセットで活用する企業が多いです。例えば、マネージャーなどの管理者を対象とした傾聴研修の中で、最初に自分がどの程度傾聴出来ているかを把握し、研修中および研修後に再度測定することで、姿勢に改善が見られたのかなどの変化をチェックするというような流れで使われています」

この他にも、自分の話し方や聴き方の癖を客観的に理解できるため、1on1の振り返りとしても役立ってるという。

前田「社内でも新任のマネージャー研修で2年ほど活用しています。実際に『自分で話しすぎだろうなという自覚はあったものの、他の人と比較してもこんなに話していると思わなかった』『真剣に行動を変える必要があると気付いた』などの声も聞かれました。1on1が上手くなった気がしていた一方で、具体的に何が改善できたのか分からない人も多くいますが、全体平均や他の人のデータと比較、また時系列での推移で変化が見れるため、『発言量は変わっていないが、面談モードのバランス改善の成果だと分かった』など、利用者の気付きも大きいようです」

データ活用の目的の醸成とデータ提供者への明確なメリットが普及の鍵に

一方で、心理的安全性が重要な1on1での音声データを、収集・分析されることに抵抗感がある人も多いという。これに対して、企業にはどのような配慮が必要なのだろうか、前田氏は次の2つを挙げた。

①目的を伝えて同意をとること

②伝えた目的以外には使えない仕組みにすること

前田「大事なのは、データを収集するときに『何のデータをどのような目的で使うか本人に同意をとること』と『目的以外での使い方ができない仕組みを整えておくこと』だと思います。NAONAの場合も事前にそれを説明し、本人に必ず同意を取った上で行います。実際、取得したデータはアプリを通してすぐに本人にフィードバックされるため、データを収集されるのは全く気にならないという声がほとんどですね。

企業のポリシーにもよりますが、データはあくまで本人が本人のために活用することを前提に捉え、人事は全体の傾向把握等のために副次的に必要最低限のデータを使うという方向性がいいと思います」

最後に、今後のサービス展開や展望について聞いた。

笹野「現在の1on1向けツールの他、今年度中には就活学生向け(グループディスカッション)ツールのリリースも予定しています。ゆくゆくは営業接客向けツールの開発もしたいと検討中で、様々な場面で応用できるツール開発を目指しています」

前田「データ活用がこのあと急速に普及していくためには、データ収集・提供する本人に大きなメリットを感じてもらうことです。スポーツ選手がスポーツアナリティクスを活用するのと同じように、ビジネスマンも自分のデータを自分で活用しながらパフォーマンスを高めていくような世界観を実現したいと考えています。いうなれば、「世の中に話しやすい上司を増やそう計画」ですね。そのためにはまず、データを収集した本人が自分のデータをもとにして、コミュニケーション力やマネジメント力の向上といったスキルアップのために活かしていってほしいと思います」

筆者紹介

株式会社コーポレイトディレクション
コンサルタント
臼山美樹
株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)にて約200社の法人企業への採用支援、および約1000名の個人への転職支援に従事した後、インドネシア拠点に出向し日系企業向けの人材紹介業務を担当。その後、経営戦略コンサルティングファーム、コーポレイトディレクション(CDI)に参画。CDI参画後は中期経営計画策定支援や人事制度改革支援、ASEANでの成長戦略策定支援等に従事。