求人原稿には産業を変える力がある。リクナビNEXT、doda、typeの編集長が「求人広告」を語る【後編】

5月29日、『グローバル人事塾』主催のパネルディスカッション『大手転職サイト編集長バトルトークLive!』が開催されました。パネリストとして集ったのは、『リクナビNEXT』『doda』の編集長と『@type』の副編集長。ナビゲータは『HRog』編集長の菊池です。

日本を代表する転職サイトの編集長たちが、転職マーケットや求人広告の未来について熱論を交わしました。本レポートでは、その一部をご紹介します。

求人原稿は”1社1ページ”から“1職場1ページ”へ?

doda編集長・大浦氏:求人原稿の引きになるワードってあるじゃないですか。例えば「財団法人」「上場」「残業なし」「安定」「ワークライフバランス」。つまり生理欲求や安全欲求、社会欲求に紐付くようなワードを打ち出した方が、応募に繋がるということです。ただデータを紐解いていくと、そういうワードに引かれて応募した人はその後入社していないことが多い。結局意思決定の動機付けとなるのは、やりがいといった満足要因なんですよね。

人材業界の営業が「応募はこういうキーワードで集まりますよ」「面接ではこう口説いてください」っていうことも大事なんだけれども、こういうことをずっとやっていて価値ある産業になるのだろうかっていうのは少し疑問なんです。

リクナビNEXT編集長・藤井氏:リクルートエージェントで転職決定した人に「転職前に情報が得られなくて入社後に困ったことは何ですか?」という質問をすると、「仕事のやり方や会社の慣習の違い」という話が出てくるんです。その点を明らかにするために、入社前に誰と話をしたかったかを聞くと、一番多いのは「職場長」なんですね。

だから求人原稿の中に配属先の職場長の話があるといいと思うんですよ。ここは私たちのビジネスチャンスでもあって、1社1ページではなく、“1職場1ページ”になれば売上が上がるんじゃないかな、と(笑)

doda編集長・大浦氏:いいですね!

リクナビNEXT編集長・藤井氏:転職でも就社でもなく”転職場”で、会社ではなく職場ごとのリッチな情報をどう求職者に提供するのか。会社でもグループでもない、チームくらいの単位で、転職情報のやり取りをした方がいいんじゃないかなと。これは私たちに託された宿題なのかなと思います。

doda編集長・大浦氏:どの雇用形態を選ぶ人が多いのかを調査した、面白いデータがあります。普通に考えたら総合職の正社員を選ぶ人が多そうじゃないですか。でも今の若い子たちは、雇用期間は無期だけど勤務地限定だったり職種限定だったりの「有期限定職」を選ぶ。自分が働く範囲の半径数メートルが具体的にイメージできないと、応募をしないしモチベーションも上がらないみたいなんですよね。そこの部分を上手く求人原稿で表現できるといいですよね。

@type副編集長・前田氏:求人原稿を見ていて、社名を隠したら他社との違いが分からないようなものってあるんですよ。会社の顔が見えない。転職活動をする人にとっても、その会社に応募する理由が見えないですよね。現場の人たちの息遣いを求職者に届けることが、いい採用をする第一歩なのかなと思います。

働く現場の人たちの息遣いを求職者に届けることがいい採用の第一歩と@type副編集長・前田氏。

求人広告は、人と企業の豊かな結びつきを実現し、産業を変えていくもの

会場の盛り上がりが最高潮に達したところでいよいよこの会も締めに入る。

HRog編集長・菊池:最後に人材業界の皆さんに向けてメッセージをお願いします。

@type副編集長・前田氏:お二人があまりにも詳しくて、僕がいろいろと質問をしたいくらいでした。転職マーケットや人材業界に起きている変化の動きを加速させるためにも、あるがままに任せるのではなく、採用に関わる人が一歩一歩未来を創っていく意識が必要だと思います。

doda編集長・大浦氏:「ゲール=シャプレーアルゴリズム」というモデルがあって、例えば5対5の合コンをやったら、全員がハッピーになるマッチングは必ずあるという考え方です。この考え方を用いてアメリカでは研修医と病院のマッチングが行われていたり、待機児童の問題を解決していたりと、全員がハッピーになるマッチングが実現してきている。

一方の日本にはたくさんの転職希望者がいて、求人もこれだけある。それにも関わらず、マッチング効率の悪さを助長してるものは何なんだろう。もしかしたら人材会社やマスコミが話をややこしくしている可能性があるかもしれないというのを、いつも思います。求職者と採用側の本質を抽出することで、もっといいマッチングは実現できるんじゃないか、と。

人材会社同士が人材を取り合ったり、当社も含めてどこの会社も「No.1サイト」と謳ってみたりといったことをやっている間は、世の中から必要とされない産業になっていくんじゃないかと思います。今の人材業界のあり方をいかに脱却できるのか。これは業界に携わる人の命題ですし、業界を上げて日本の労働力を盛り上げていきたいですね。

リクナビNEXT編集長・藤井氏:リクルートの創業者の江副さんが社内報で今から40年以上前の1972年に、求人広告の果たす役割について書いています。代表的なものをいくつかご紹介します。

求人広告は、企業の経営理念・社風を創る(人間観の言語化)

経営者の理念や人材観、現場リーダーや働く人の思いは、求人広告を介して表出するものだと書いています。言語化することによってインナーのブランディング効果があるということですね。採用ツールはいろいろありますが、求人広告ならではの価値というものがあると思っています。

求人広告は、人と仕事とのより良い結びつきを実現し、そのことによって人の生活を豊かにする

そもそも求人広告は人と仕事の良い結びつきを作るもの。こう言うと当たり前のようですが、その先に豊かな生活と結びつける役割があると言っています。今は介護や子育てといった制約に向き合うような働き方も増えていますが、まだまだ僕らができてない部分だという思いがあります。

求人広告は、産業構造を変える

「もっとこういう働き方だったら自分の力を出せるのに」という潜在的な働き手の思いを、人材サービスに携わる人間が言語化することで企業との橋渡しをする。それによってその職場がどんどん変革していく。まだ社会の構造は変わる途中だと思いますが、その変化を加速させる役割が求人広告にはあると思っています。

採用という言葉を使い続けていいのか

採用は「採る」に「用いる」と書きます。悪く捉えれば、人を道具のように扱っている感じがありますよね。「採ってやる」「選んでやる」といった考え方が今もまだあるとしたら、変えていかなければいけないんじゃないか。働く人を中心に考えたやり方はもっとあるだろうし、「採用」も「雇用」も、もう新しい言葉に変えた方がいいんじゃないかと思うんです。

求人広告は、人と企業の豊かな結びつきを実現して、よりよく産業を変えていく力を持っている。40年前に江副さんが言っていたことを僕らが引き継いで、求人広告のサービスをもっと進化させていけたらいいですよね。ここにいる皆さんと「採用」という言葉に代わる新しい概念を作って、日本が世界で一番人を生き生きと働ける、素晴らしい国であるということを世界に伝える。次の40年をそんな未来にしたいですし、今日をそのスタートにできればと思っています。

(文・天野夏海/撮影・畑上照夫)

プロフィール

(写真左から2番目)
株式会社リクルートキャリア
リクナビNEXT編集長/リクルート経営コンピタンス研究所 エバンジェリスト
藤井 薫氏

1988年慶応大学理工学部卒業。リクルート(現リクルートホールディングス)に入社。TECH B-ing編集長、Tech総研編集長、アントレ編集長、リクルートワークス研究所、Works編集などを歴任。2007年より、リクルートグループの組織固有智の共有・創発を推進するリクルート経営コンピタンス研究所コンピタンスマネジメント推進部およびループ広報室に携わる。2016年4月よりリクナビNEXT編集長に就任。リクルート経営コンピタンス研究所エバンジェリスト兼務。AI/IoT、自動運転などの人材獲得競争の深部、複業、People Analyticsなど、個人と企業が共鳴する新たな関係、HRMのあり方を発信中。近著『働く喜び 未来のかたち』(6/25発売 言視舎)。

(写真左から3番目)
パーソルキャリア株式会社
転職メディア事業部営業本部本部長/doda編集長
公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル 理事
大浦 征也氏

2002年株式会社インテリジェンス(現パーソルキャリア株式会社)に入社し、一貫して人材紹介事業に従事。法人営業を経験した後、キャリアアドバイザーに長年携わる。担当領域は、エンジニアから営業・販売、管理部門、またエグゼクティブ領域のサーチ事業まで多岐に渡り、これまでに支援した転職希望者は10000人を超える。2007年からは、転職サイトdodaの営業責任者及びマーケティング責任者を兼務し、現職。JHR(一般社団法人人材サービス産業協議会)のワーキンググループメンバー、SHC(公益財団法人スポーツヒューマンキャピタル)の理事等にも名を連ねる。

(写真左から4番目)
株式会社キャリアデザインセンター
メディアARP推進局レスポンスプロモート部 @type副編集長
前田 直哉氏

2008年にキャリアデザインセンターに新卒で入社し、@typeの企画職に配属。2015年から@typeと女の転職@typeの2サイトの企画・運営領域を担当し、サービス改善・強化に携わる。2018年4月より@type副編集長

(写真左から1番目)
ナビゲータ:
株式会社ゴーリスト
HR事業部 事業部長/HRog編集長
菊池健生

2009年大阪府立大学工学部卒業。株式会社キャリアデザインセンターにて求人広告の法人営業、営業企画、プロダクトマネジャー、編集長、マーケティングなど様々な業務を経験する。2017年、10億件を超える求人情報のビッグデータソリューション事業を展開する株式会社ゴーリストへジョイン。入社以降、HR業界・採用に関するニュースメディア『HRog』の編集長を務める。