【コロナ禍から3年#01】求人件数から見るコロナ禍の求人動向

コロナ禍から3年、あれから人材業界は

新型コロナウイルスが流行し、2020年4月7日に1回目の緊急事態宣言が発令されてから3年が経過しようとしている。人材業界は大きな打撃を受けながらも、乗り越えて市場を成長させてきた。この3年間で人材業界はどのように変化してきたのか?本特集ではコロナ禍における変革を振り返る。

コロナ禍の影響による不安定な経済は、企業の採用活動にも影響を与えた。特集第1回となる今回は、人材業界向け求人データ分析サービス「HRogチャート」を使用して2020年1月から2023年1月までの求人件数を分析。雇用形態や職種、地域別に、実際の求人件数がどう推移してきたのかを調査する。

※仕様上紹介案件なども含むため実際の件数とは異なる場合もあるが、本記事内では正値として扱う。

求人件数はコロナ禍以前を越え、採用競争はより苛烈に

まずは、コロナショック以前から現在にかけての求人数の推移を見ていく。日本国内で初めて新型コロナウイルスが検知された2020年1月時点で2,293,740件あった求人件数は、2020年6月には約半数の1,130,885件まで減少した。

しかし、その後徐々に求人件数は回復し、2022年2月にはコロナ禍前の水準を超える2,417,231件まで増加。2023年1月時点では2,686,102件(2020年1月比+392,362件、+17.1%)と、コロナ禍前より高い水準を維持している。

正規雇用市場の求人件数はコロナショック以前から約2倍に

雇用形態別に見ると、2020年1月と同年6月の比較において正規雇用では-31.9%(-34,319件)の減少幅に対し、非正規雇用では-45.7%(-902,188件)と、対面接触の仕事が多い非正規雇用領域で新型コロナウイルスの影響がより大きく見られた。

一方で2020年1月と2023年1月で求人の増減率を見てみると、非正規雇用領域では+19.7%(+348,589件)なのに対し、正規雇用領域では+102.5%(+110,320件)と、正規雇用市場がコロナ禍前を大きく上回る水準に回復・成長している。一部の企業ではコロナ禍を経て、人員確保のために非正規雇用から正規雇用へ雇用形態を切り替える動きもあり、正規雇用の市場が活性化している様子がうかがえる。

コロナ禍で特に影響を受けた職種は?

正規雇用では対面サービスの職種が減少、物流・ITで需要増

正規雇用領域では、2020年1月から同年6月にかけて求人件数が減少した職種は上から順に「ホテル/ブライダル系」(-68.9%)、「飲食/フード」(-60.0%)    、「教育/語学/スポーツ」(-50.8%)。コロナ禍初期は緊急事態宣言など外出自粛の要請が多く、それらの影響を大きく受けた職種が並ぶ結果となった。

またコロナ禍前(2020年1月)から現在(2023年1月)にかけて、「ITエンジニア」(+144.9%)、「製造/工場/化学/食品」(+103.4%)、「運輸/物流/配送/警備/作業/調査」(+103.2%)、「営業/事務」(+101.8%)、「建設/土木」(+100.2%)の職種が2倍以上の水準にまで求人件数が回復・成長している。物流系などコロナによる需要増のある職種や、ITエンジニアなど人手不足の顕著な領域で、さらに採用難度が上昇しているようだ。

非正規雇用では対面サービスの職種が大きく減少、3年後も回復しきれず

非正規雇用領域では、2020年1月から同年6月にかけて求人件数が減少した職種は上から順に「ファッション/アパレル系」(-86.8%)、「映像/イベント系」(-85.4%)、「アミューズメント」(-75.3%)と、こちらも正規雇用と同じく外出自粛による影響の大きい職種がランクインした。一方で同じ対面サービスの職種でも、ワクチン接種などで人材需要が増えた「医療/医薬/福祉」の求人増減率は-5.5%に留まっている。

コロナ禍前(2020年1月)から現在(2023年1月)までにかけての非正規雇用領域では、正規雇用領域と同様に「営業/事務」系職種や「建設/土木」系職種などの求人件数が伸長した。しかし今回調査した21職種のうち9職種では増減率がマイナスとなっており、求人件数が回復していない職種が目立つ結果となった。

「映像/イベント/芸能/キャンペーン」(-57.6%)や「美容/エステ/ネイル」(-55.8%)、「ファッション/アパレル/インテリア」(-39.3%)などの職種は依然としてコロナ禍前の水準を下回っている。マスク生活や自粛ムード、リモートワークの普及で需要そのものが落ち込んだ職種では、3年経った現在も需要が回復しきれていない様子がうかがえる。

コロナ禍で特に影響を受けたエリアは?

正規雇用では地方を中心に求人件数が倍になる地域も

2020年1月と同年6月の比較では、「千葉県」(-39.9%)「滋賀県」(-39.9%)、「京都府」(-38.9%)などの大都市周辺の地域で求人が大きく減少している。一方で「高知県」(+16.9%)や「山形県」(+1.9%)、「徳島県」(+1.3%)などの地方では、最もコロナの影響が深刻な時期でも求人件数への影響はほぼなく、むしろ求人が増える結果となった。

またコロナ禍前(2020年1月)と現在(2023年1月)の求人件数を比較すると、全47都道府県がコロナ禍前以上の水準に回復した。特に、深刻な人手不足やリモートワークの普及による地方企業の採用機会拡大を背景に、「高知県」(+379.7%)や「島根県」(+231.2%)、「山形県」(+206.7%)など、コロナ禍前より2倍以上まで求人件数が増加している地域もある。

非正規雇用では多くの地域が影響を受けるも、コロナ禍以前の水準まで回復

2020年1月と同年6月を比較したところ、全47都道府県でコロナ禍による求人件数の減少が見られた。「島根県」(-21.7%)、「香川県」(-36.8%)、「鹿児島県」(-39.1%)以外の44都道府県が求人増減率-40.0%~-60.0%と、多くの地域で求人件数が半減している。

またコロナ禍前(2020年1月)と現在(2023年1月)の求人件数を比較すると、「青森県」(+72.8%)、「沖縄県」(+61.1%)、「静岡県」(+59.9%)では求人件数が回復傾向だ。特に沖縄県はコールセンターの誘致を積極的に進めている影響もあり、人材需要が引き続き高まっている。

一方で「広島県」(-0.8%)、「奈良県」(+4.7%)、「佐賀県」(+5.2%)など一部の地域では、求人件数の回復状況はコロナ禍前と同等の水準または微減に留まる結果となった。

まとめ

今回の調査の結果、人手不足が深刻な職種・エリアでは、コロナショック以前と比較しても2倍以上の求人が流通し、企業の人手不足感が加速していることが分かった。一方でコロナ禍によって業界全体の需要が落ち込んでしまった職種では、非正規雇用を中心としていまだに求人件数が回復していない状況も浮かび上がっている。HRog編集部では引き続き、求人件数の観点から日本の採用市場の動きを追っていきたい。

(鈴木智華)

調査概要

調査対象データ:HRogチャートより「DODA」「type」「イーアイデム」「エン派遣」「エン転職」「バイトル」「タウンワーク」「マイナビ転職」「リクナビNEXT」「フロムエー」「はたらこねっと」「マイナビバイト」「リクナビ派遣」に掲載された求人情報をデータ化して集計
調査対象期間 :2020年1月6日~2023年1月2日
集計条件   :各月第一月曜日時点の求人件数を集計