政府が働き方改革の一環として副業を推進、大企業でも副業解禁が進むなど、副業マーケットが徐々に広がりを見せています。また、新型コロナウイルスの影響でリモートワークの体制が整い、個人が副業をはじめるハードルも下がっています。副業がより一般的なものとなりつつある中、今後企業と個人の関係性はどのように変化し、採用のあり方はどのように変わっていくのでしょうか?本特集では変化の只中にある副業マーケットを追います。
今回は副業系サービスを運営する株式会社ドゥーファ、パーソルイノベーション株式会社、株式会社Another worksの代表にインタビューをおこなった。副業マーケットの最前線を牽引する彼らに、副業マーケットの現状と副業受け入れ企業のニーズ、副業したい求職者の求職者心理について話を聞いた。
目次
ドゥーファ 一戸氏に聞く副業マーケット最前線
株式会社ドゥーファ
代表取締役会長
一戸 健人 氏
いちのへ・けんと/新卒でITベンチャー企業に入社し営業、新規事業の立案、人事を担当。入社2年目に新規事業で顧問事業を立ち上げ、3年半で3億弱のサービスに成長させる。3年目からは上場企業との合弁会社の社長になり、ベンチャーキャピタル事業も兼任。4年半のサラリーマン生活を終え、2017年9月末に退職、10月より株式会社ドゥーファを創業。
はじめに副業マーケットの概況と新型コロナウイルスが副業マーケットに及ぼす影響について、副業募集プラットフォーム『Kasooku』を運営する株式会社ドゥーファ代表の一戸健人氏に話を聞いた。
一戸氏:副業をしたい人材自体は増えています。リモート勤務になって可処分時間が増えたことにより、新たに副業を探し始めた方が一定数いらっしゃいます。一方で、受け入れ企業側はまだまだ少ないのが現状です。また過去に副業社員を受け入れたことのある企業でも、このコロナ禍で業務委託の契約を見直すケースが多く、Kasookuでも掲載案件の解約も増えているのが現状です。
しかし、コロナ禍においてニーズが増えている職種もあるのだという。
一戸氏:採用を止めている中でも売上は伸ばさないといけない、しかしリモート勤務によりテレアポの成功率が下がった影響でリード獲得の難易度が上がっているという課題を持つ企業が増えています。そのため弊社のクライアントでは、副業営業チームを形成してリード獲得を副業人材に任せる取り組みを進める企業が増えています。人的ネットワークを持っているセールス人材が副業社員として入り、顧客を紹介するイメージです。
報酬はリード数による成果報酬型のため、コストの効率化が図れるのも魅力の一つだ。
一戸氏:また、業務委託での雇用契約であっても、その会社にとってなくてはならない存在となっている顧問人材など市場価値の高い人材は、コロナ禍でも引き続き契約が続いています。
一戸氏:副業人材採用のメリットは、試しにやってみるという形からスタートできることです。3ヶ月などの短期契約から始めることができるため、副業人材が求める条件に満たない場合は契約を更新しないという選択もできます。また成果報酬での採用も多いため、正社員と比較しても副業者への支払い報酬は低コストです。自社では採用が難しいような他社社員に専門領域の仕事の依頼が可能となるため、仕事のクオリティが高く、費用対効果も良いです。
一戸氏:また、政府が発表する働き方改革の工程表上では、2027年までに副業・兼業は自由に行える社会を目指しているため、副業は今後当たり前になってくると思います。また受け入れ企業も、自社社員が副業を行うことを認めていく社会になっていくのではないでしょうか。
とはいえ、現在まだまだ副業人材の受け入れ可能な会社は少なく、副業マーケットは買い手市場となっている。副業雇用を取り入れている会社が先行者利益を得られるフェーズといえそうだ。
副業人材受け入れのメリットとは?
パーソルイノベーション株式会社
lotsful 代表
田中 みどり 氏
たなか・みどり/2012年新卒でインテリジェンス(現パーソルキャリア)に入社。正社員の転職支援領域における法人営業に従事。 IT・インターネット業界を主に担当し、ベンチャー企業を中心に約1000名の転職をサポート。 大企業とベンチャー企業の事業開発支援を行なう事業立ち上げを経て、lotsfulを設立。lotsful全体事業戦略設計や、法人/個人向けの事業開発・開拓等を実施。
次に副業人材を受け入れることのメリットと副業採用の可能性について、副業マッチングサービス『lotsful』代表の田中氏に話を聞いた。
田中氏:副業人材の活用を検討する企業を、企業フェーズごとに創業期、成長期、成熟期に分けると図のようにそれぞれのフェーズごとに副業採用におけるニーズの特徴があります。
①創業期(社員数:10名前後)
社員数〜10名程の企業で、一定のプロダクトやサービスのフォーカスが定まり、これから検証を進めていきたい不確実なフェーズ
田中氏:このフェーズでは、社員として人材を多く抱えるよりも、目の前の課題解決・実務を経営陣と共にスピーディーに実行に移せる個人のニーズが高い傾向にあります。
②成長期(社員数:~100名程)
社員数数十名〜100名を超え、事業の柱が立ち組織をさらに拡大したいフェーズ
田中氏:このような企業では、組織化していく各ポジションの核となる人材の採用など、長期的に組織で活躍してほしい個人のニーズが高い傾向にあります。そのため、副業で採用する場合も社員化を見据えた『副業採用』のような形が出てきます。また中間マネジメント層の不足により、経営層・部門責任者とメンバーの間の立ち位置で、戦略〜実務サポートへのニーズも高くみられます。
③成熟期(社員数:数百名以上)
社員数数百名以上になった企業で、新規事業領域でのイノベーションが求められるフェーズ。
田中氏:このような企業では変革を求め、自社にはない知見やカルチャー、考え方を持つ人材を外部からメンターのような形で求めるケースがみられます。
また、田中氏は創業期・成長期・成熟期それぞれのセグメントにおける副業採用の具体例についても教えてくれた。
田中氏:例えば自社プロダクトを提供している創業期の企業で、企業の初期メンバーは開発に強みを持つメンバーが多いのに対し、営業やカスタマーサクセスなどビジネスサイド・運用面の知見が弱いというクライアントがいました。初期フェーズでは早急に顧客の声を拾いながらプロダクトを磨いていく必要があるため、自社が弱い領域に知見を持つ人を入れて立ち上げをサポートしてもらいたいというニーズは多いです。
創業期は育成コストがなかなか割けないため優秀な人材を確保したいが、正社員採用となると個人のハードルも上がりやすい。しかし副業ならハードルも下がるため、経験豊富な人材を早期に獲得できるようになる。
田中氏:いっぽうで成熟期のメガベンチャーや大手企業では、自社のやり方や考え方がある程度固まっているため、自社にない知見で事業を変革したいというニーズも多いです。また、新規事業を立ち上げる場合、その領域に精通している人材や異なるアプローチで成功している企業の知見を取り入れたいと考えます。アドバイザーに留まらず実務レベルで業界の今を知っていて、成功を経験している副業人材のニーズは増えています。
副業人材を活用するために企業側に求められる体制づくりについて話を聞いた。
田中氏:多様な働き方を受け入れられる組織風土・体制・意思がある会社に副業人材はマッチしやすいと思います。例えば、正社員以外でも社内の情報にスムーズにアクセスできる仕組みや、オンラインでスムーズにコミュニケーションを取れる体制があることです。
副業人材は限られた時間でパフォーマンスを出さなければならないため、必要な情報にアクセスできる仕組みが大切になるという。
田中氏:また、副業人材と自社組織をうまくつなぐことができるPM(プロジェクトマネージャー)のような存在がいる企業はうまくワークしている印象があります。最初は密にコミュニケーションをとり、お互いの期待値やアウトプットイメージなどを調整していくと良いと思います。
社内の環境整備や適切なマネジメントは、副業人材だけではなく新入社員や時短勤務の社員などにとっても重要だ。副業採用を成功させるためには、多様な人材に活躍してもらうための組織基盤をつくる必要がありそうだ。
副業人材3タイプ:副業人材の心を掴むスカウトメールとは?
株式会社Another works
代表取締役 CEO
大林 尚朝 氏
おおばやし・なおとも/早稲田大学在学中に株式会社リアライブに参画しマーケティング責任者として強固な集客基盤を構築。その後、株式会社パソナ パソナキャリアカンパニーに新卒入社し顧問やフリーランスを業務委託紹介する新規事業に従事。全社総会にて史上最年少で年間最優秀賞を受賞するなどギネス記録を数多く樹立。2018年に株式会社ビズリーチのM&A領域の新規事業における創業メンバーとして参画。2019年5月7日に株式会社Another worksを創業。
最後に、副業人材のタイプとタイプに合わせたスカウトメッセージの作成方法について複業マッチングプラットフォーム『Another works』を展開する株式会社Another works代表取締役 CEOの大林氏に話を聞いた。
大林氏によると、副業人材は業務内容よって大きく3つのタイプに分かれるという。
①クラウドソーシング人材
特定の業務を切り出して委託し、働いてもらう人材
大林氏:クラウドソーシングはインターネット上のサービスを介して多種多様な業務を在宅で気軽に受注することができます。また書類選考や面接などもないため、すき間時間などを利用しながら気軽に副収入が見込める働き方になります。企業側からすると、時間・場所の制約がなく、また実名を求めない形で業務依頼ができるのが利点になります。
②複業人材(パラレルワーカー)
自身のスキルやノウハウを活かし、企業に深く入り込んで参画する人材
大林氏:複業人材(パラレルワーカー)は自身のスキル拡張や挑戦機会を求めて副業している方が多いです。実際に企業のプロジェクトに参画するため、一定のスキルや専門性が求められます。企業側は、今欲しいスキルやノウハウを持つ即戦力人材を雇用リスクを背負うことなく業務委託ができるのが利点です。
③顧問人材
エグゼクティブや特定領域に深い知見を持つ専門家として、企業の経営支援をする人材
大林氏:稀少性の高い経験やノウハウ・人脈を活かした解決力が求められる層になります。顧問人材と一言で言っても、その経歴は上場企業の元役員から若手エグゼクティブまで様々です。シニアエグゼクティブはお金よりも社会貢献や知識の還元、若手エグゼクティブは確固たる収益源として副業を捉える方が多い傾向にあります。企業側は百戦錬磨の顧問人材をスポット的に仲間にすることで、経営課題をスピーディーに解決できる点でニーズがあります。
①から③に近づくにつれて依頼業務の難易度や専門性の高さ、スキルや知識の独自性が求められるようになるため、採用方法も匿名→実名→指名での業務依頼にシフトする。ハイスキルな②複業人材(パラレルワーカー)や③顧問人材はスカウトなどで指名アプローチするのがおすすめだ。
では、それぞれのタイプにおいて求職者から選ばれるためには、スカウトメールでどのようなメッセージを送ればよいのだろうか。
大林氏:どのタイプにも共通して言えるのは、採用して育てるというよりも、スキルや経験を頼るという感覚でメッセージを作っていくことです。その上で、①クラウドソーシング人材には依頼内容を明確化し、想定報酬・想定工数を開示した上でのスカウトメールを。②複業人材(パラレルワーカー)には具体的にどのスキルを魅力に感じ、どのようなプロジェクトに参画してほしいのか、そして勤務形態は常駐なのかリモートなのかを明記したスカウトメールを。③顧問人材には、現状の経営課題となぜ、今あなたが必要なのかが伝わるスカウトメールを送ってみることをオススメします。
各タイプの副業の目的・ニーズに合わせてメッセージングを変えるのが重要なようだ。
大林氏:副業・複業領域は現在非常に注目されているトピックです。新型コロナウイルスの影響もあり個人の可処分時間が増えた今、副業・複業はさらに加速していくことでしょう。企業も雇用リスクを最大限に抑えながら必要な人材を業務委託という形で仲間にできる点は魅力的だと思います。
副業採用のメリットを聞いたところ、3社とも採用コストや雇用リスクを抑えながら正社員採用では難しいスキルレベルの人材を採用できることを挙げた。新型コロナウイルスの影響で正社員採用を控える動きが増えている今、人材確保の新しい手段として副業社員採用を検討する企業はさらに増えそうだ。