【人事データ活用#03】社員のパフォーマンスを最大化させるためのチャットログデータ活用法

Laboratik Inc 代表取締役
(左)三浦 豊史 氏
みうら・とよふみ/2004年にニューヨーク市立大学卒業後、現地のクリエイティブエージェンシーR/GA New Yorkでデザイナーとして勤務。2007年に帰国後は、GoogleにてインダストリーマネージャーとしてAdWordsやYouTubeの広告営業・コンサルに携わる。同社退社後Laboratik Inc創業。

(右:インタビュアー)株式会社コーポレイトディレクション
コンサルタント
臼山 美樹 氏
株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)にて約200社の法人企業への採用支援、および約1000名の個人への転職支援に従事した後、インドネシア拠点に出向し日系企業向けの人材紹介業務を担当。その後、経営戦略コンサルティングファーム、コーポレイトディレクション(CDI)に参画。CDI参画後は中期経営計画策定支援や人事制度改革支援、ASEANでの成長戦略策定支援等に従事。

リアルタイムワークデータで「はたらく」を変える。人事データ活用最前線

近年人事データの活用、いわゆる「ピープルアナリティクス」が注目を集めている。最近は、従来の人事データのみならず、日々の「はたらく」にかかわるデータ(リアルタイムワークデータと呼ぶことにする)を広く収集・活用しようとする動きが広まってきている。それに伴い、センシング技術やウェアラブルデバイス、オンラインツール等、「はたらく」を可視化するツールも続々と登場してきている。本特集では、新しい「はたらく」にかかわるデータの収集・活用の取り組みに焦点を当てながら、人事データ活用の最前線を追う。

今回は、リアルタイムワークデータ活用の先進事例として、Slack上のチャットデータをもとに社員同士のつながりや会社の雰囲気を可視化できるツール「We. for Remote Work」を開発・提供しているLaboratik株式会社の三浦豊史氏に、社員のパフォーマンスを最大化させるためのチャットログデータ活用法について話を聞いた。

リモートワークの普及により「マネジメント体制の不十分さ」が浮き彫りに

コロナ禍の現在、リモートワークへの移行を余儀なくされ、「社員・組織の状態を把握しづらくなった」「社員1人1人のパフォーマンスが最大化されず業績に影響が出ている」という企業も多いのではないだろうか。体制を整備しきれないまま、急遽リモートワークへと移行した企業ではどのような課題感を持っているのか、三浦氏に聞いた。

「コロナ禍でのリモートワーク導入に伴い、企業からは『対面で話す機会が激減したため、組織の本質的な課題感が掴めない』『組織内でチームワークが上手くいっていないチームがあるが、具体的な課題や取るべきアクションが分からない』『オフィス出社メインの社員とリモートメインの社員では情報格差が出てきている』などの声が挙がっています。

また、企業規模や業界にかかわらずリモートワークやハイブリットワークが主流になり、働き方は急激にアップデートされています。その一方で、マネジメント手法のアップデートは遅れており、マネジメント不全が深刻化している状況です」

リモートワーク環境下ならではの課題から「We. for Remote Work」の需要も増加しているという。

「弊社では創業当時からフルリモートを導入していますが、We. for Remote Workを開発したきっかけも『リモートだとチームや組織の空気感が分からない』『直接会わないとコミュニケーションが促進されない』といった社内の課題からでした。現在の他社からのニーズの高まりを見ると、多くの企業がマネジメント体制について同じ課題に直面していると感じます」

チームの雰囲気は「心理的安全性」と「共有認知」で分かる

コロナ禍での需要が高まる「We. for Remote Work」とは、具体的にどのようなツールなのだろうか。

「『We. for Remote Work』 は、Slack上のチャットデータとアンケートをもとに社員同士のつながりやチームの雰囲気を可視化できるツールです。メンバー間や部署間でのコミュニケーション状況をはじめ、多く発信している人や他のメンバーからよくリアクションを受けている人を可視化し、社員同士のつながりを測ることができます」

社員同士のつながりの可視化(ソシオグラム)のイメージ

また、「チームの雰囲気」を可視化するために指標とする2つの要素について三浦氏は続ける。

「チームの雰囲気は組織行動学の『心理的安全性』と『共有認知』の2つの要素を軸に可視化しています。心理的安全性とは、チームのメンバーが不安や恐怖、心配を感じることなく発言や能力発揮ができる状態のことです。共有認知とは、プロジェクトのゴールや役割分担、作業進捗などが見える化・共有されている状態を指します。

この2つの要素に注目した理由には、いずれも組織行動学の学術要素で、リモートワークにとって欠かせないかつチームのパフォーマンスや業績にも影響を与える要素であることが挙げられます。共有認知は『阿吽の呼吸』に近いイメージで、仕事の進め方に対する認識がチーム内で共有されていれば周りの様子をうかがうことなく自分の仕事に集中でき、パフォーマンス向上に寄与します。

また、心理的安全性はチームの誰もが躊躇せずに自由に発信できるオープンな環境が形成されることで個人のパフォーマンスが向上し、結果として業績アップにつながると考えています」

主観データと客観データの両方から組織状態を把握し、改善へ

診断結果のイメージ 

社員や組織の状態を可視化するための情報に、Slack上の「チャットデータ」と「アンケート」の2つを用いる理由は何なのだろうか。

「アンケートはアナログながら状況把握をしやすい一方で、回答者の主観なのでブレが生じる可能性があります。一方、Slackによるコミュニケーションデータは、実際の行動データなので客観データといえます。アンケートデータという『主観データ』とチャットデータという『客観データ』を相互補完的に活用することで、組織状態を多角的に把握できます。

ただ、自分の日々の行動をデータとして収集されることを不安に思う方もいるので、ツール導入の目的とそのツールで何をするのか、またはしないのかをきちんと説明する必要があります。具体的には、ツール導入の目的はあくまでチームとして共有認知と心理的安全性の把握をするためであり、誰が何を話しているかを監視するわけではないと伝えることが大切です。

また、オプションでDMやプライベートチャンネルを含めることもできますが、原則Slackのオープンチャンネルのパブリックデータだけを収集します。実際どの情報を集めるのかを明確にし、社員の心理的な抵抗感をなくす配慮も必要ですね」

従業員体験(EX)データの蓄積でより良い組織を目指す

組織診断ツールは経営者や人事の組織状態把握が主目的になりがちだ。しかし、組織やコミュニケーション改善のためには、現場でのデータ活用や行動改善につなげるのが非常に大切だという。

「診断結果およびアクションプランは、全社版/チーム版/個人版の3つのパターンで表示されるようになっています。たとえば、全社版は経営者や人事が組織状態把握や全社施策に、チーム版はマネージャーを中心にチーム運営やマネジメント改善に、また個人版は本人の行動改善や上司・周囲からのフォローに活用できます。

しかし、本来の組織改善は現場でのPDCAや行動改善に活用してもらうことが重要です。そのため、『先月からどこが変わったか』といった進捗状況に加え『特にどこがよくなったか』といったポジティブな変化は定常的に表示される仕組みにしています。できるだけポジティブかつ人にやさしい情報を表示して、継続的に活用してもらえるよう工夫しています」

診断結果およびアクションプランのイメ―ジ

多数のデータを蓄積していき、ゆくゆくはチャットデータのみで診断ができるようになることを目指すという三浦氏に今後の展望を聞いた。

「アンケートの回答はビジネスマンにとって面倒なものなので、その手間をなくすことでデータ収集・活用はさらに加速すると考えています。また将来的には、配置や育成、評価など、従業員体験(EX)に関わるデータ全てを包括するプラットフォームの構築を目指し、取り組んでいきたいですね。

たとえばソシオグラム(社員同士のつながりを可視化)を見ていると、マネージャーやリーダーではなくても積極的に発信している人や、他部署と頻繁にコミュニケーションを取っている人が見えてきたりします。これらをもとに、今まではっきり見えなかった縁の下の力持ち的な役割の人を見つけて評価したり、部署と部署をつなぐ役割を担ってもらう人を選んだりすることも可能だと思います。社員に対する適正な評価と適材適所を見出すツールとしても活用してほしいと思います」

筆者紹介

株式会社コーポレイトディレクション
コンサルタント
臼山美樹
株式会社インテリジェンス(現・パーソルキャリア株式会社)にて約200社の法人企業への採用支援、および約1000名の個人への転職支援に従事した後、インドネシア拠点に出向し日系企業向けの人材紹介業務を担当。その後、経営戦略コンサルティングファーム、コーポレイトディレクション(CDI)に参画。CDI参画後は中期経営計画策定支援や人事制度改革支援、ASEANでの成長戦略策定支援等に従事。