法改正とともに見る人材派遣業界30年史

1986年に労働者派遣法が施行され、人材派遣業における法整備がされ始めてから36年が経過しました。その後も時代や価値観の変化から法改正を重ね、今日まで成長してきた人材派遣業。本記事では、その歴史を整理して深掘りしていきます。

法改正とともに成長した36年

法整備時代(1986年~)

「職業安定法第44条」によって禁止事業に指定されていた人材派遣ですが、高度成長期後に人材派遣へのニーズが高まり、1986年7月に施行された労働者派遣法によって法的な整備がされて人材派遣業の形ができました。一方で、当時はソフトウェア開発や通訳、財務処理等を含む13職種のみを対象とする形で始まっています。

その後1996年12月に人材派遣の需要が拡大したことを受け、派遣対象となる業務が専門性を要する業務を中心に26種まで追加されました。

このようにポジティブリスト方式で派遣対象の業務を限定して法整備された人材派遣業ですが、1999年12月に禁止業務を指定するネガティブリスト方式へ変更となります。派遣対象の業務が原則自由化されたことを受けて人材派遣の需要はさらに高まり、市場が活性化しました。

規制緩和時代(2000年~)

規制緩和の波は止まらず、2000年12月には紹介予定派遣が解禁されます。紹介予定派遣とは、派遣期間後に派遣先企業と派遣労働者の合意が得られた場合に、派遣先企業が派遣労働者を正社員として直接雇用する雇用形態です。

その後は2004年3月に製造業務への派遣が解禁され、2007年3月には製造業務の派遣期間が1年間から3年間に延長されました。また同年4月には、医療関係業務において代替要員としての医師や看護師の派遣など一部が解禁されました。

この期間では特に製造業での規制緩和が影響し、人材派遣業界はさらに成長しました。

規制強化時代(2012年~)

規制緩和によって成長を続けた派遣業ですが、2008年のリーマンショックを受けて環境が大きく変わります。世界的不況により、特に製造業では「派遣切り」と呼ばれる派遣労働者の解雇や雇い止めが社会問題となりました。

労働者の権利を保護するため、2012年10月には日雇い派遣の原則禁止やグループ企業への派遣の規制、マージン率等の情報公開義務化などの法改正があり、規制強化の流れへと変わりました。また労働者派遣法の正式名称が「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」に改正され、派遣労働者保護のための法律であると明記されました。

その後2015年9月には、労働者派遣事業の「許可制」への一本化や派遣期間を原則一律上限3年(3年ルール)に変更、派遣労働者の雇用安定・キャリアアップ措置の実施等を盛り込んだ法改正が施行されました。同改正によって、人材派遣業界の健全化や再編が加速しています。

さらに2020年4月、派遣先で直接雇用された労働者と派遣労働者の待遇格差を解消するために「同一労働同一賃金」が施行され、賃金の決まり方が「派遣先均等・均衡方式」と「労使協定方式」の選択制になりました。また翌年2021年1月と4月には、派遣労働者への説明義務の強化や派遣先企業における派遣労働者からの苦情処理義務の強化、インターネットでの情報提供の義務化などを含む施行規則の改正が施行されました。

このように、2012年の法改正から現在まで規制を強化する動きが続いています。

派遣労働者数の推移

続いて厚生労働省が毎年発表している「労働者派遣事業の事業報告の集計結果について」をもとに、派遣労働者数の推移を見ていきます。

なお、2015年の法改正前の労働者数は一般労働者派遣事業の常用雇用労働者・登録者数と特定労働者派遣事業の常用労働者数の合計を指しています。法改正によって労働者派遣事業の「許可制」への一本化がなされた後は、無期雇用派遣労働者数と有期雇用派遣労働者数の合計で集計が行われています。

派遣労働者数の推移(厚生労働省より)

規制緩和の波が始まった2000年度の派遣労働者数は1,386,364人で前年度と比べて29.8%増加と、大幅に成長しています。

その後は順調に成長し、2008年度には3,989,006人まで増加しています。しかし同年のリーマンショックを経た2009年度は、労働者数が3,019,521人で前年度から24.3%減少しました。リーマンショックによる経済的な打撃が、人材派遣業界にも大きな影響を与えたことがうかがえます。

リーマンショックによる減少傾向は2012年度まで続きますが、2013年度から回復し始めます。2013年度の労働者数は2,515,145人で前年度より2.6%増加しており、少しずつ回復に転じていると分かります。

厚生労働省が発表した最新の情報である2020年度の労働者数は、1,926,487人で前年度より4.9%増加しています。その内訳を見てみると、特に無期雇用派遣労働者数は712,896人で、前年度から18.0%増加となっており、無期雇用への転換が進んでいる様子がうかがえます。

また、一般社団法人 日本人材派遣協会が2022年8月に公表した「労働者派遣事業統計調査2022年第2四半期(4⽉〜6⽉)」によると、2022年4~6月における紹介予定派遣の実稼働者数は3,137人でした。前年同時期と比べると11.6%増加しており、紹介予定派遣を希望する労働者も増えていることが分かります。

さらに実稼働者数を業務別に調査した結果では、軽作業や貿易、一般事務、製造などが前年同時期と比べて増加していました。

HRogチャートで見る近年の求人件数

法改正を重ねて成長してきた人材派遣業界ですが、近年はコロナ禍の影響を大きく受けました。ここでは、人材業界向け求人データ分析サービス「HRogチャート」を使用して2019年11月から2022年11月までの求人件数の動向を調査しています。

求人件数の推移(HRogチャートより)

上記は人材派遣に特化した求人サイトに出稿された求人件数を、グラフにまとめた図です。2019年11月には303,072件あった求人件数が、緊急事態宣言発足等の影響を大きく受けて2020年7月には136,670件と大幅に減少しました。その後はコロナ禍による規制が緩和され始めるとともに、2022年3月には362,766件まで回復し、現在もコロナ禍前の水準を上回る形で推移しています。少子高齢化に伴う労働人口の減少により人手不足が続く中、コロナ禍で影響を受けた市場も回復している様子がうかがえます。

調査概要

調査対象データ:HRogチャートより「はたらこねっと」「リクナビ派遣」「エン派遣」に掲載かつ雇用形態が派遣の求人を集計
調査対象期間 :2019年11月~2022年11月
集計条件   :第一月曜日時点の求人件数を集計

まとめ

今回は、人材派遣業が法整備によって誕生してからこれまでの成長を法改正と併せて解説しました。リーマンショックやコロナ禍によって打撃を受けたこともありましたが、需要の回復とともに市場も再度成長しています。また近年は、無期雇用派遣や紹介予定派遣の派遣労働者数が増加しており、有期雇用からの転換が進んでいることも特徴的です。今後も人材派遣業界の動向に注目です。

また、本記事でも使用した「HRogチャート」では約100の求人媒体から蓄積された求人情報ビッグデータを、最短2クリックの簡単操作で簡単に分析できます。集計項目を自在にカスタマイズできるので、エリア毎や職種毎の相場調査、データ集計などを直感的にできます。

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