株式会社moovy
代表取締役社長
三嶋 弘哉 氏
みしま・ひろや/新卒で株式会社キャリアデザインセンターへ入社。転職エージェントのコンサルタントとして、大小300社の中途採用支援及び約8,000名のキャリアカウンセリングを経験。その後、経営企画マネージャーや転職エージェント事業の営業統括部長、新規事業責任者を歴任。2020年4月より株式会社moovyを創業、7月に採用動画メディア「moovy」ベータ版をリリース。
新型コロナウイルスの影響により、多くの企業の採用活動はオンラインへと移行した。しかし採用がオンライン化し求職者と対面で会うことができなくなったことで、候補者の見極めや魅力付けが難しくなるという新たな課題も生まれている。
企業文化や所属部署の風土・慣行や社内にいる人の魅力など、オンラインでは伝わりづらい情報をどのように求職者へ伝えていく必要があるのだろうか。今回は「今後採用領域で求められる情報発信のあり方」について、株式会社moovy代表の三嶋氏に話を聞いた。
「盛っている」求人広告に求職者も気づいている
「2018年に、リクルートが転職を希望している求職者に対して行った調査によると、求職者が知りたいと思っていて、かつ実際に知ることができた項目としては『年収』や『勤務時間』などの定量情報があげられ、またその一方で知りたかったのに知ることができなかった項目としては『配属部署の風土・慣行』や『一緒に働く上司・メンバーの人柄』などの定性情報あげられました」
新型コロナウィルスが流行する前から、求職者はこのような人・組織に関わる情報について知りたいのに知ることができないと考えていたようだ。では、なぜそのような情報が求職者にまで届いていないのだろうか。
「理由の一つとして、情報を発信するときに、企業と求職者の間に人材系の企業が介在していたからというものがあります。一般的な求人メディアの場合、求人原稿や写真などは企業側が用意するのではなく、人材系企業が取材して制作するパターンが多いです。そして企業からお金をいただいて応募を集めなければならない人材系企業は、1件でも多くの応募を集めるために、求職者にとって魅力的なキーワードをちりばめた求人原稿を制作することも多いのです」
その結果、他社の求人原稿と差別化ができず、社内の雰囲気などを含めたその会社の良さが見えづらい求人広告が出来上がってしまいがちだったと三嶋氏は語る。
「しかし口コミサイトやSNSなどの影響もあり、学生や求職者の情報リテラシーは高くなってきています。そのため、そのような求人広告を見ても『盛っている』、つまり大げさに良いところだけを強調しているのではないかと冷静に見ている人も多いです。だからこそ求職者を集めるためには、会社を綺麗に見せるように盛るのではなく、ありのままの個性をさらけ出すという視点が重要になってきています」
その流れを裏付けるように、Wantedlyやnote、自社の採用オウンドメディア、SNSなどを使って、各企業が自社の個性を外へ発信しようという流れにシフトしてきている。
「特に企業ブランドやプロダクトの認知度で求職者を魅力付けするのが難しいベンチャー・スタートアップの会社ほど、採用ではいち経営者の人となりや一緒に働く仲間の魅力を発信する必要があるのではないでしょうか」
「エモさ」「ユーモアさ」も伝わるのが動画の魅力
三嶋氏が代表を務める株式会社moovyから7月にローンチされた「moovy」は、「テキストでは伝わらないリアルを伝える」をコンセプトとした採用動画メディアだ。
「moovyは30秒という短尺の動画を企業が自らたくさんUPしてもらうことで、企業の魅力を求職者に伝えるプラットフォームです。事業内容や仕事内容の説明も動画で完結させてほしいという思いから、テキストを書き込める部分は最小限にしています。動画ということ以外にフォーマットが決まっていないため、自由度が高くよりリアルな情報を表現できます」
また三嶋氏は動画を活用するメリットについて、「テキストでは伝わらないような『生っぽさ』『ユーモア』のある情報を伝えやすいのが最大のメリット」と語る。
「これはある人材系企業の人事担当者のインタビュー動画です。真面目な動画だったらNGになってしまうところもあえて残して編集しています。そうすることで、ただ真面目なだけではない担当者の人間性や愛嬌などが余韻として残るような動画になります」
言葉の間違いや言い淀み・格好よくない部分もカットせず、企業のありのままの姿を発信することで、求職者が求めているような手触り感のある人・組織の情報が伝わるという。
「また、これは社長の涙もろい一面を紹介した動画です。普通の求人広告だったら社長が泣いているところをコンテンツにすることはないと思うのですが、事業内容の紹介や会社のビジョンなど一般的な動画も用意しながら、時おりこのような社長の人柄が見えるコンテンツも用意することで、自社に興味や親しみをもってもらえるきっかけとなりそうです」
「はたまた採用にまったく関係ない、30秒踊っているSNSチックな動画をあげている企業もいます。ただ、個性的な特技を持っている社員を紹介することがかなりインパクトのある形で伝わるのではないでしょうか」
以上のような求人広告や採用HPなどではなかなか取り上げられないリアルな情報こそが、今後会社選びで必要とされるだろうと三嶋氏は続ける。
「一メンバーとして働いているときに、自分の会社の好きなところや面白いと感じるポイントは一緒に働く人の魅力であることが多いと思います。しかしそのような魅力はテキストではなかなか表現しにくいものです。動画というツールを使って、そのような企業の内側の魅力が少しでも伝わりやすくなるようになればと思っています」
「採用成功」と「組織作り」がさらに密接に
昨今の新型コロナウィルスの感染拡大の影響で、リアルな職場の雰囲気が求職者からはどんどん見えなくなってきている。だからこそ、動画を通して「オフィスを覗き見る」体験を候補者に提供することが今後トレンドになっていくのではないだろうか。
「仕事内容や給与などの定量情報だけではなく、『誰とどんな働き方をするのか』という求職者が本当に欲しい情報をきちんと伝える仕組みが必要だと考えています。このサービスを通じて、企業と求職者との間で起こるミスマッチを少しでも減らしていきたいです」
一方で、そのような人・組織の情報を外部へ発信するためには、メンバー一人ひとりがエンゲージメント高く働いている組織であることが必要不可欠である。このコロナ禍で「ミスマッチのない採用実現」と「よい組織作り」の関連性はさらに高まっていきそうだ。