【コロナ禍から3年#04】コロナ禍で変わった採用市場 人材業界の動向はどう変わった?

コロナ禍から3年、あれから人材業界は

新型コロナウイルスが流行し、2020年4月7日に1回目の緊急事態宣言が発令されてから3年が経過しようとしている。人材業界は大きな打撃を受けながらも、乗り越えて市場を成長させてきた。この3年間で人材業界はどのように変化してきたのか?本特集ではコロナ禍における変革を振り返る。

コロナ禍による働き方や社会の需要の変化に合わせて、人材業界もまた変化を余儀なくされた。採用縮小のあおりを受け売上が落ち込んだ企業がある一方で、新たな需要に対応することで大きく成長した企業もある。今回は事業環境によって明暗が分かれた人材業界各社のIR資料などを分析し、コロナ禍が人材業界の各市場に与えた影響と、それに対する各社の生存戦略を紐解いていく。

コロナ禍の影響で打撃を受けた市場・伸長した市場

打撃を受けた市場

新型コロナウイルスが猛威をふるいはじめた2020年は、経済活動の先行きが見えないことから、多くの企業が採用活動をストップした。それにより人材業界全体がダメージを受けたが、その中でも特に影響が大きかったのは、移動や対面での活動を伴うビジネス領域だった。

例えば対面サービスが必須の飲食業界は、緊急事態宣言に伴う営業自粛要請の影響で、採用ニーズの縮小が深刻だった業界だ。また対面での採用イベントを活発に行っていた新卒採用の領域は、コロナ禍により大きな制限を受けた。

ここでは「飲食」「新卒採用」の二つの領域について、コロナが市場に与えたインパクトと各社の動きを見ていく。

飲食

HRogチャート」より各月第一月曜日時点の求人件数を集計

アルバイト・パート募集の求人の中で、飲食系の求人は福祉系や販売・接客系と並んで大きなボリュームを占めている。しかし2020年5月には、飲食系の求人件数は前年比-60.5%(114,989件)にまで減少。アルバイト・パート採用の支援を行う人材系企業は大きな打撃を受けた。

アルバイト系求人サイト「バイトル」を運営するディップ株式会社では、2021年2月期の連結決算は前年比-30.0%、営業利益-49.1%と、大きく前年比を割り込んだ。同社は決算説明会で、飲食領域を中心とした顧客企業からの求人広告出稿が減少したことを報告している。

また飲食専門の採用支援会社であるクックビズ株式会社の2020年11期の通期決算は、営業利益で約6.1億円の赤字。広告宣伝費の大幅削減や人件費・家賃の抑制などのコスト削減を行うなど苦境に立たされた。

しかしコロナ発生から2年を経て、現在飲食業界の有効求人倍率はコロナ禍以前と同等まで回復している。ディップ社の掲載求人数は2021年2月を底に回復し、クックビズ社においても2022年11月期の営業利益は1.7億円と3期ぶりの通期黒字化を達成した。求人件数も、2023年5月時点で385,522件まで回復している。コロナによって長期間停滞した飲食業界だが、少しずつ市場は元に戻りつつあるようだ。

新卒採用

新卒採用の領域では、大手就職ナビサイト主催の合同企業説明会など、採用イベントが大きな影響を受けた。「リクナビ」を運営するリクルートキャリアは2020年2月20日に、「マイナビ」運営のマイナビは2月26日に、それぞれ合同企業説明会の中止を発表した。オフラインイベント中止が続いたことを契機に、新卒採用に携わる企業は、オンライン採用の実施・対応へ大きく舵を切ることになる。

就活ナビサイト「あさがくナビ」を運営する株式会社学情では、2020年4〜5月に24回開催予定だった合同企業セミナー「就職博」をすべて中止にした。しかし6月にはいち早くオンライン開催に移行し、イベントを再開した。また「あさがくナビ」にスマートフォンを利用したweb面接サービスを組み込むなど、オンライン採用向けの機能を充実させたことで、ナビサイトの利用企業が増えたという。

オンラインが主流になり、スカウトサービスやSNS、採用オウンドメディアなど、採用手法が多様化したことも見逃せない変化だ。HRogの調査によると、2024年卒学生向けのナビサイトに掲載されていた企業数は46,815社。コロナ禍前である20卒時点の掲載企業数50,803社と比較すると、約10%企業数が減少している。オンライン採用の手法が次々登場する中で、従来の採用手法であるナビサイトを「利用しない」選択をする会社も増えているようだ。

伸長した市場

コロナに伴うニーズ縮小やオンライン対応に苦慮した業界がある一方で、コロナが追い風になった業界もある。ここではコロナ禍を味方につけて市場規模を拡大した「IT」「副業人材」「プロフェッショナル人材」「BPO」の4つの領域について、コロナが市場に与えた影響を見ていく。

IT

HRogチャート」より各月第一月曜日時点の求人件数を集計

コロナ禍を契機に、多くの企業がDXの遅れとその必要性を認識し、IT投資を積極的に行うようになった。それに伴い、コロナ禍以前から採用ニーズが高かったIT人材はさらに需要が増している。2020年1月から2023年5月までの求人件数を見てみると、一度は減少したもののその後は右肩上がりに成長している。2020年5月から2023年5月にかけて求人件数は+218.7%増加した。

株式会社アトラエが運営するIT系人材に強い求人メディア「Green」では、コロナ禍にもかかわらず、2021年9月に掲載求人数が過去最高を更新した。従来の「Green」の利用企業はIT・web系企業やベンチャー・スタートアップが中心だったが、コロナ禍以降は大手企業を中心に利用業界の裾野が広がっている。

技術者派遣をおこなうテクノプロ・ホールディングスでは、IT分野の需要拡大を見込み、技術者の採用と育成に意欲的に取り組む。非技術者を採用し、リスキリングや教育を行うことでデジタルスキルを有する技術者の確保も行なった。その結果、IT技術者を前年比1,381人増やしている(2022年6月期時点)。

副業

2018年に政府が「副業・兼業の促進に関するガイドライン」内で副業・兼業に関する規定を新設した。ガイドライン改正により副業しやすい土壌が整っていたことと、コロナ禍に伴う在宅勤務の増加で時間的余裕が生まれたことで、副業を希望する人材が急増。様々な職種で副業人材が活躍するようになった。

かつてはエンジニアやデザイナーの募集案件が多かった副業人材だが、現在は企画・人事といったホワイトカラー系の職種の募集も増えるなど、副業人材の幅は広がっている。

大手クラウドソーシングサービスを運営する株式会社クラウドワークスでは、副業市場の広がりにいち早く着目。2020年1月からハイクラス特化型の「クラウドリンクス」の提供を開始した。同サービスの登録者は10万人を突破、また2022年9月期には過去最高益を達成するなど、大きな盛り上がりを見せている。

プロフェッショナル人材

コロナ禍を契機とするDX・事業開発ニーズとともに、経営者の右腕として動ける「プロフェッショナル人材」の需要が高まった。新製品の開発や販路の開拓、生産性向上などの重要ミッションも遂行できる、即戦力だが獲得難度も高い人材の採用を支援するサービスが大きく成長している。

プロ人材特化のスカウトサービス「ビズリーチ」ではコロナ禍以降、直接採用企業の利用が10,400社増加(2022年7月時点、+前年同期比30.0%)。ヘッドハンターからの利用も増加し、売上高は前年同期比+59.6%(2022年7月期)と高成長を遂げている。

また若手ハイクラス人材向けスカウトサービス「AMBI」、ミドル層ハイクラス向け転職サイト「ミドルの転職」を運営するエン・ジャパン株式会社によると、両サービスではコロナ禍以降会員数・利用企業ともに増加しているという。

BPO

コロナ禍に伴う改革の一つとして、業務プロセス改善に取り組む企業も多くあった。そこで注目されたのが、業務プロセスの一部分を外部委託するBPOサービスだ。また官公庁でもアウトソーシング活用の機運が高まっており、BPO市場は急拡大している。

医療・介護関連のBPOサービスを行う株式会社ソラストでは、新型コロナウイルスのワクチン接種事業やPCR検査業務などのコロナ関連業務を多く受託。2022年3月期には9年連続の増収増益を達成した。

また派遣・BPO大手の株式会社パソナグループでは、業務設計からセンター運営、人員配置までをグループで一括して受託できる強みを生かし、官公庁や民間企業からの大規模な業務を受託している。官公庁からは働き方改革の推進や人材確保・就職支援に関する業務を、民間企業からは組織の構造改革やDXに関わる業務を受託しているという。

人材業界主要各社の生存戦略

ここでは、日本国内の人材ビジネス市場で特に大きな企業規模を誇るリクルートホールディングス・パーソルホールディングス・パソナグループの現在の状況と今後の戦略について解説する。コロナ禍を経て市場が大きく変わった今、各社が描く生存戦略に迫る。

リクルートホールディングス

Indeedをはじめとしてグローバルに事業を展開するリクルートHDは、海外の雇用情勢の影響を強く受ける。Indeedの利用顧客が多くいるアメリカでは、感染拡大初期の2020年3月〜4月にかけて多くの企業が求人をストップしたものの、その後求人は急増、2022年に求人数はピークに達した。

しかし2023年3月の決算説明会でのCEO出木場氏の発言によると「2023年は大手テック企業のレイオフや銀行破綻が続き、今後の景気後退を意識している企業が多い」という。企業の採用意欲減退による売上縮小に強い危機感を抱く同社は、HRテクノロジー事業における新規採用の停止・広告宣伝費の削減などコストカットに取り組む。

またビジネスモデルをクリック課金型から応募課金型に変更することで単価の上昇を狙うことも検討中だ。応募課金型ビジネスへの転換は現在テスト段階であり、引き続き検証を続けるとしている。

パーソルホールディングス

人材会社大手のパーソルHDでは「Staffing SBU」「Career SBU」「BPO SBU」「Technology(旧:Professional Outsourcing SBU)」「Solution SBU」「Asia Pacific SBU」の6つのSBU(Strategic Business Unit:戦略的事業単位)を展開している。

その中でも人材紹介・求人広告事業を行うCareer SBUは前年同期比39.9%の増収(2023年3月期・第3四半期累計実績ベース)と、好調に成長し全体を牽引する。またプロフェッショナル人材の需要増を受け、Career SBUではハイクラス総合転職サービス「doda X」を2022年10月にリリース。dodaブランドの市場範囲をさらに拡大する方針だ。

また2023年4月には、成長が見込まれるBPO領域に特化した「BPO SBU」を新設し、その中核会社としてパーソルBPO株式会社も設立予定だ。今成長している市場への投資を堅実に行っている様子がうかがえる。

パソナグループ

人材派遣会社大手のパソナグループでは、好調なRPO(採用代行)サービスの更なる拡大を狙う。

また今後注力予定の領域として、脱炭素化への対応業務を挙げている。政府が掲げる「2030年までに2005年比で50%以上のCO2削減」という目標実現のため、環境研修や排出量可視化支援をパッケージ化、BPO×「GX(グリーントランスフォーメーション)」として展開を予定している。また官公庁や自治体、大手企業と連携し、高度化する社会課題の解決を目指すBPO×「X-Techサービス」の拡大を行う方針を掲げている。

またキャリア形成支援として、人的資本経営支援ソリューションやリスキリング支援にも注力する予定だ。

(ライター:鈴木 智華)