株式会社プレシャスパートナーズ
取締役
矢野 雅
やの・まさや/1980年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、法律事務所での勤務を経て2008年に株式会社プレシャスパートナーズの立ち上げに参画。管理部門の立ち上げに携わり、その後人財紹介事業の立ち上げに携わる。これまで1,000名以上の転職・就職を支援し、現在はセミナーでの講演・新規事業の立ち上げを行っている。
現在、新卒採用における採用手法は大きな広がりを見せています。従来のナビサイトのみにとどまらず、ダイレクトリクルーティングやインターンシップ、SNS採用、求人検索エンジンなど、企業・学生ともに選択肢が多様化しています。本特集では新卒採用サービスを提供する各社に話を聞き、新卒マーケットの今とこれからのトレンドを紐解きます。
採用面接など、企業の選考フローにおいてもオンライン化が加速しているなか、新卒採用イベントの開催方法も大きく変化している。今回は、就活イベント『リクルートオーディション』を運営する株式会社プレシャスパートナーズの矢野氏に、コロナ禍におけるイベントの変化、今後の展望について話を伺った。
対面型イベントをオンライン開催に踏み切るも、経営者からは懸念の声
『リクルートオーディション』はどのような特徴があるイベントなのだろうか。実際に参加する企業や学生の傾向について話を聞いた。
「社長や経営者が自社の理念やビジョンなど、ありのままの情報を”生の声”で学生たちに届けられるイベントです。社長・経営者自らが学生に向けて語るため、経営者の魅力が伝わりやすいといった特徴があります。
参加企業は、業界・業種はさまざまですが、社長や経営者が採用に対する考えをしっかり持っているという共通点があります。採用を人事部だけに任せるのではなく、企業のトップが会社を作っていくための投資として、新卒採用を行う必要があると考える企業が多いですね。学生に対する知名度が低い企業では、会社名や事業内容ではなく、理念やビジョンをしっかり学生に伝え、そこに共感する学生を採用したいという考えで利用しています。
一方で、参加している学生は、大手・有名企業などのブランドだけに惹かれない、会社のありのままを見たいという人が多いです。社長・経営者の目線や経営の考え方をしっかりキャッチして会社を選びたいというような意欲的な学生も多くいます」
そのような中、コロナ禍でのイベントの開催方法にも大きな変化があったという。
「新型コロナウイルスの感染症拡大により、これまで100%リアル対面型で開催していたイベントを、オンライン型での開催に変更しました。社長・経営者が“生の声”で想いを伝えられることが『リクルートオーディション』の売りでもあったため、リアル対面型で参加していた企業からは、オンライン開催に対する不安の声もありました。実際にも、『リアルよりも温度感が下がるんじゃないか』『社長や経営者の良さが伝わらないのではないか』といった声も聞かれましたね」
イベント時間や参加人数を変更し、理解度を担保。地方学生とつながる機会も増加
懸念の声も多かったイベントのオンライン化にあたり、何か工夫したことはあるのだろうか。
「参加企業の懸念点を踏まえて、イベントの開催時間や内容・参加人数を変更しました。オンライン型をはじめた当初は、リアル対面型と同じ『企業6社:学生50名』という中規模な人数で開催していましたが、人数が多いと画面越しで感じられることに限度があると感じたんです。
そこからは、『企業3社:学生25名』まで規模を縮小し、その分開催回数を増やしました。その結果、オンラインでもお互いの理解度を下げず、回数を増やすことで企業に出会える機会も増やすことができたと思います。
現在は、リアル対面型とオンライン型の両方で開催していますが、リアル対面型では、感染対策を行ったうえで夜20時以降の開催から日中開催へと変更しました。それに伴って、当日の食事会は中止、後日企業ごとのルールに沿って開催を判断してもらうようにしています」
実際にイベントのオンライン化を進めたことで得られたメリットも多いと話す。
「オンラインイベントのマイナス面としては、参加者が『実際に相手と会ってみなければ分からない』と感じてしまう点がありますが、どちらかというとプラス面が大きいと感じています。例えば、交通費や移動時間が不要なため、居住エリア関係なく参加できる地方学生が増えたことは良い変化でした。
現在では、オンラインイベントの参加学生のうち、半分以上を地方学生が占めており、地方学生を採用したい企業や地方に支社がある企業などの参加も増えましたね。企業にとっても普段出会えない学生に出会えることはメリットになっていると思います」
開催エリア拡大を目指し、質の高いイベントを通じて雇用ミスマッチを削減
現在、東京のみで開催している『リクルートオーディション』。今度の展望やビジョンを実現するために必要だと考える取り組みについて聞いた。
「今後は、開催エリアを広げて、西日本や地方でも開催していきたいですね。学生の会員数も増えてきているので、開催回数も増やしたいです。
もちろん増やせば良いだけでなく、その上で重要なのが『イベントの質を下げないこと』だと感じています。そのためにも、イベントのコンセプトを学生にしっかりと説明し、イベントの目的と参加企業のことを理解した上で参加してもらう。これに取り組んでいくことが今後のカギになってくると思います。イベントの本質を理解した参加者が多いほど、イベントの価値も上がり、成長していけると考えています」
社長や経営者が採用に関わることがマッチングには重要だと矢野氏は続ける。
「中でも中小企業・ベンチャー企業では、社員が経営者の近くで働くことが多く、定着率などを挙げるためにはカルチャーフィットが大事なポイントです。カルチャーフィットする学生を採用する一番の近道は、社長や経営者が採用に関わることだと思うので、これに対する理解を広げていきたいですね。
『新卒採用は未来への投資である』という考えの経営者を増やし、経営者の想いに共感する学生の採用を実現することで、雇用のミスマッチ解消に貢献していきたいと思います」