【22卒特集#10】オンライン化で内定辞退が増加?22卒採用の傾向と23卒採用の対策

カオス極める2022年新卒採用、企業のサービス利用動向を徹底分析

現在、新卒採用における採用手法は大きな広がりを見せています。従来のナビサイトのみにとどまらず、ダイレクトリクルーティングやインターンシップ、SNS採用、求人検索エンジンなど、企業・学生ともに選択肢が多様化しています。本特集では新卒採用サービスを提供する各社に話を聞き、新卒マーケットの今とこれからのトレンドを紐解きます。

今回は株式会社ログシー、株式会社アズライト、株式会社ベネッセi-キャリアより4名の方にインタビューを行った。3社それぞれの視点から22卒採用を振り返り、23卒採用にどう向き合うべきか話を聞いた。

ログシー 山田氏・鈴木氏に聞く 22卒採用、企業全体の動きと学生の反応

株式会社ログシー
(右)代表取締役
山田 卓司 氏
やまだ・たくじ/大手総合人材企業数社において最年少・最速で営業マネージャーに抜擢されるなど数々の採用支援実績を上げたのち、2017年に株式会社ログシーを設立。2019年に育成支援事業を立ち上げ、2020年には大阪支社を開設。東西エリアにて採用から定着・育成まで一貫して手掛ける。新卒採用に関するノウハウと実績を数多く持つ、採用のスペシャリスト。

株式会社ログシー
(左)キャリアコンサルタント/広報PR責任者
鈴木 さくら 氏
すずき・さくら/早稲田大学卒、法政大学大学院政策科学研究科修士課程修了。JALグループにて成田空港国際線旅客サービスに従事し、その後ホスピタリティの専門学校に転職。エアライン科学科長として幅広く教務に携わったのち、2019年から株式会社ログシーに参画。これまでキャリアコンサルタント、そして講師として、高校生から管理職まで2000名以上のキャリア支援に携わる。現在、都内と地方大学にて就活生の支援を行っており、就活生のホンネを熟知する。

はじめに、22卒採用における企業全体の動きとそれに対する学生の反応について、採用支援を幅広く手がける株式会社ログシー代表の山田氏と、キャリアコンサルタント・広報PR責任者の鈴木氏に話を伺った。

ナビサイトの利用減少、オンライン説明会は歩留まり低下

山田 卓司 氏(以下、山田氏)「コロナ禍の影響もあり、採用数を抑えつつも採用活動自体は継続している企業が多いようです。また採用予算の削減や人事リソースの減少などがあり、母集団形成施策を見直す企業が非常に増えました。

具体的にはナビサイトの利用をやめたり、これまで複数のサイトを併用していたのを1つに絞ったりという動きがあります。その代わりに、SNSを活用したソーシャルリクルーティング、オウンドメディアリクルーティングなど、なるべく予算をかけずに長期的に採用活動ができる土台を作っていく戦略の企業が増えています」

また、コロナ禍の開始から1年が経ち、各企業でオンライン採用の型ができてきた。オンラインとオフライン、それぞれの良さを勘案し、上手く使い分けできている企業も増えている。一方で、学生からは一部の企業のオンライン対応に不満の声が上がっている。

山田氏「多くの企業が採用をオンライン化できたものの、その実態は『オフラインでやっていたことをただオンラインに載せ替えただけ』というところがまだまだ多いようです。

例えば企業説明会の場合、スライドの文字が小さすぎてスマホやパソコンでは見にくかったり、社長の話から事業の説明、先輩社員との座談会も含めた120分以上のアジェンダを詰め込んだり…。そのような説明会をおこなった結果、説明会参加から一次選考への転換率、いわゆる『歩留まり』が、オフラインでの開催時より悪化したという話も聞きます。

企業側は学生の目線に立って、オンラインのための採用コンテンツを設計し直す必要がありそうです」

22卒学生は大学3年生のインターンシップの時期からオンラインによる就職活動が中心になっている世代だ。どの学生も「オンライン就活慣れ」しており、企業側の採用コンテンツのクオリティもよく見ている。自社の目線ではオンライン採用に対応できているつもりでも、学生からの評価がなかなか伴わず苦労している企業は多いという。

オンラインネイティブな就活生たちはオフラインに苦手意識あり

それでは今、オンラインネイティブな就活生が求めているコンテンツとはどのようなものなのか。ポイントは「オフライン体験のケア」にある。

就活の大部分がオンライン化し、インターンでもオンライン開催が増えた。オンラインでは提供できるコンテンツに制約があるため、インターンの短期化の傾向が生まれた。開催日数はこれまで多かった「1日」が減り、「半日」での開催が増えている。

つまり、オフライン開催時よりもインターンで得られる経験量が減っているのだ。一方で学生にインターンの希望日数を尋ねると、「2、3日」と回答する学生が多い。

鈴木 さくら氏(以下、鈴木氏)「社会人経験のない学生たちには、大人が思っている以上に仕事がイメージしにくいものです。オンライン上の情報だけでは『働くイメージ』がもちづらく、志望動機を書くことに苦労していると言います。そのため、2~3日程度時間をかけて就業体験ができるインターンを彼らは望んでいるのだと思います。

オンライン上で就業体験や社風、会社の雰囲気などを掴んでもらうには、最低でも数日間のインターンを設定した方がよいでしょう」

また、実際に対面したときのケアも重要だ。22卒学生はオフラインでの就活体験が少ないため、対面面接などでは企業側が思っている以上に緊張しているのだという。

鈴木氏「普段自室から面接に参加し、1クリックで退室するのに慣れている22卒学生にとって、対面面接は非常にアウェーな空間での勝負です。緊張でパフォーマンスが発揮できないことも多いため、企業側はそれを念頭に置いて、長めのアイスブレイクを用意してあげるとよいでしょう」

ベネッセi-キャリア 桜井氏に聞く 早期化の原因と早期ブランディングの有効性

株式会社ベネッセi-キャリア
商品サービス本部本部長 dodaキャンパス編集長
桜井 貴史 氏
さくらい・たかふみ/大手人材サービス会社にて、新卒採用サービスや日本初の大規模Web説明会サービスの立ち上げ、グローバル新卒採用事業等を推進。2016年にパーソルキャリアに入社し、ベネッセコーポレーションとの合弁企業であるベネッセi-キャリアにてdodaキャンパスを立ち上げ。現在は、大学向けキャリア支援サービスも含め、同社の商品サービス全般を統括。

次に、株式会社ベネッセi-キャリアで新卒向けダイレクトリクルーティングサービス「dodaキャンパス」の編集長を務める桜井氏に、就活早期化の原因と企業が早期に取るべき動きについて話を伺った。

コロナ禍への不安・オンラインの利便性から就活が早期化している

22卒採用の大きな傾向として、「早期化」と「内定辞退の増加」が挙げられる。中でも早期化はここ数年続いてきたトレンドではあるものの、コロナ禍の影響を受けてより一層顕著になった形だ。その原因は主に3つある。

「1つ目は、コロナ禍で非常に就活生の不安心理が強かったことです。22卒ではちょうど2020年の夏が3年夏のインターンシップの時期にあたるのですが、今後コロナ禍で情勢がどう変わるかわからない状況でした。21卒の先輩が苦労しているのを間近で見ていることもあり、もしかしたら自分たちの時にはさらに就活が厳しくなるのではないかという懸念が学生の心理にあり、早めの動き出しに繋がりました。

2つ目は親やキャリアセンターからの後ろ押しが強かったことです。自身が働いている会社の業績が悪化したり採用を減らしたりと、情勢の厳しさを目の当たりにする中で、親が子供の就職に不安を感じて急かすこともあったのではないでしょうか。家にいる時間が増えて、子と親が就活の話をする機会が増えたことも一因だと思います。

3つ目はインターンへの参加がしやすくなったことです。オンラインでのインターンを各社が開催し始め、距離と交通費の面で参加のハードルが下がりました。結果、早い時期からインターンに参加する学生が増え、全体的な早期化を促したのだと思います」

早期からの認知獲得がカギ Z世代に合った意向上げを

早期化への対応策として、桜井氏は3年夏のインターンシップへのアプローチを挙げている。夏は4年生の内定出しなどの時期と被るため、なかなか3年生のインターンシップに工数をかけられない企業も多い。そのタイミングで他社よりも注力してインターンを開催できるかが、母集団形成成功のカギになりそうだ。

また、余力のある企業は3年生の始まりや2年生の1月など、さらに前の段階で自社の認知を高められるとよいという。

「早期からのブランディングが、採用競争が加速する中で大事になっています。ここではいかに工数と予算をかけずに認知を獲得できるかがポイントです。そこで注目したいのがキャリア教育を通じてのブランディングです。

近年、経団連や文科省、経産省などで大学1、2年生に対するキャリア教育が必要だとの議論がされています。キャリア教育は企業の協力なくしてはできませんが、経団連・文科省・経産省はインターンをはじめとするキャリア教育は人材確保にとらわれない取り組みであることが必要だと定義しており、採用に直接関わらない形でなければいけません。

弊社では現在、企業から素材を提供して頂き、キャリア講座を開発・運営するようなサービスを考えています。企業は素材を提供するだけでキャリア講座を通して学生認知を高められるというのが、早期ブランディングの理想的な形だと思います」

一方で、就活の始まりは早期化しつつも、就活の終了時期に大きな変化はないという。学生は早期から複数のインターンに参加して企業を比較し、保険として複数内定を所持しながら、最後の1社の合否が出るまで内定承諾を決めかねているようだ。

この状況で採用を成功させるには、母集団形成のタイミングからいかに自社への入社意欲の高い人を集められるか、あるいは選考の中でいかに意向上げができるかが重要になる。

「学生たちはいわゆるZ世代と呼ばれる世代で、企業ブランドよりも自分らしさを認めてくれる会社に惹かれる人が多いです。だから、母集団形成から各段階で『いかにあなたにインターンに参加してほしいか』『なぜあなたを選んだのか』という一人ひとりへのメッセージを伝えてあげると効果があります。伝えるタイミングも重要で、特に学生が初めて企業を認識する第一印象がその後の勝敗を大きく左右するため、オファーのタイミングで伝えるのが最も効果的です。

そうしたやり取りの中で『この企業は自分をちゃんと見てくれている、自分らしさを発揮できそうだ』と思える体験を作ってあげることが、意向上げに繋がるのではないでしょうか」

アズライト 佐川氏に聞く 内定辞退防止のカギ 採用コンテンツで差別化を図れ

株式会社アズライト
代表取締役
佐川 稔 氏
さがわ・みのる/(株)トーコンホールディングスにて300社程度の採用支援を行う。(株)エス・エム・エスへ転職後、求人メディアの営業マネージャー、新卒メディアの責任者を経験後、2014年に株式会社アズライト創業。大手~スタートアップ企業まで、年200社程の採用戦略の設計・ブランディング・実務アウトソーシングと上流~下流までをトータルでサポートする。

最後に、採用戦略コンサルティングを手がける株式会社アズライトの佐川氏に、内定辞退を防ぐコンテンツづくりのカギと、早期化に対する対応の注意点を伺った。

内定辞退防止に必要なのはコンテンツの差別化

佐川氏によると、オンライン化の影響で学生が気軽に参加できるようになったこともあり、企業説明会などで人を集めやすくなっているという。実際にある企業では、オンラインで説明会を開催した場合、オフラインでの開催の約5倍ほどの学生が集まる事例もあるようだ。

しかしその一方で、オンライン採用は就活生の動機付けには向いていない。実際、最終面接まで完全オンラインでの企業では内定辞退率が非常に高いという。

「22卒採用では内定辞退が増加しており、実際に、誰もが知る大手企業であっても内定承諾率が50%程度という例があります。実は大企業の方が、集まる母数が多いため学生一人ひとりとの接点が少なく、また来社自粛を徹底している企業が多いので内定承諾率は下がりやすいんです」

では内定辞退を防止するため、企業はどんな対策を打てばよいのだろうか。一つはオフラインでの接点を増やすこと。もう一つはオンラインコンテンツの強化だという。

「具体的な手段としては、まずインターンのクオリティを上げて、採用初期の段階から就活生の意向を上げることです。正直なところ、オンラインインターンの内容がどの企業も似たり寄ったりになってしまっています。分かりやすい例を挙げると、不動産賃貸業の企業はだいたい『こんなお客さんが来ました。どの物件を紹介しますか』というワークなんですね。業務内容を体験することはとても重要なのですが、結局学生は他社と比較して就職先を決めるので、他社と差別化できないと意味がありません。

そのため、まずは競合他社がどのようなインターンを行っているか調査する必要があります。その上でインターンコンテンツにどれだけ予算と時間をかけてクオリティを高められるかということが非常に重要です。インターンに限らず、コンテンツは1度ちゃんと作っておけばその後何年も使い続けられるので、投資する価値は十分あると思いますよ」

また採用動画の充実も内定辞退の防止策として有効な手段だという。今は説明会もオンライン開催が主流で、オフィスの様子や働いている人を見る機会が少ない。その分、動画で情報を補完してあげることが大切だと佐川氏は言う。

「『私の自慢の先輩紹介』や『私が入社した理由』など様々なテーマの動画を5~10本程用意し、選考の連絡をする際に動画のリンクを一緒に送ります。すると学生は選考の合間に企業の解像度をどんどん上げられて、入社意欲も上がっていきます。

このとき重要なのは、ターゲットに合わせた動画を送ることです。送る相手の属性×志望職種というように、細分化した動画を用意できればより学生に刺さるコンテンツになります。

例えばエンジニアを採用するときに、採用競争が激しいので機械電子系の学生だけでなく理系全般から募集することがあるかと思います。しかし建築系の学生がいきなりエンジニアの仕事の話を聞いてもあまりイメージができない。このような時に、機械電子系以外の学部出身でエンジニアとして働いている先輩社員のインタビューが見られたら、学生の興味はぐっと高まります。

内定辞退をするということは、平たく言えばその会社に入りたいと思えないということ。だからこそ、その人が入りたくなる情報をピンポイントで与えられれば志望度は高められます。弊社では、採用コンテンツづくりにもマーケティング的思考を取り入れてコンサルティングしています」

早期化対応は本当に必要か?工数対効果を考えて

マーケティング的思考は、採用活動の開始時期を考える上でも重要だ。前述の通り、就活の早期化が進んではいるものの終了のタイミングは依然変わっていない。早期に内定が出ても、大手企業の合否が出るまで内定承諾を保留にする学生が多いからだ。

「保留の状態が長く続けば、内定者フォローの工数が余計にかかってしまいます。コロナ禍の不安で大手志向の学生が増えていることもあり、早く内定を出してすぐに承諾がもらえるようなクロージング力やブランド力がない企業には、採用を早期化するメリットが少ないという捉え方もできます。

ただトレンドに乗っかるのではなく、自社のクロージング力や工数対効果をしっかり見て、本当に早期で採用活動する必要があるのかを考えることが重要だと思います」